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第4章 フェスティバル!(8)
8
放送の効果もあって、会場までの道のりは人だかりでいっぱいだ。人と人の間を「すみませーん」と言いながら通り抜け、着いた先は講堂の裏手。出演者の控え室になっている。学園内での有名人や、見目麗しい方々、そして仮装の名に違わない着ぐるみの方々。それぞれの支援者が衣装チェックをしている中、見慣れたブロンドが見える。
「いたいた、流ちゃん!」
「うっ、部長ー、すみません俺……」
ざわざわとした控え室内で俺を見つけて駆け寄ってくる花田部長に、項垂れて謝るしかない。しわくちゃになっちゃった衣装を捧げた。それに、結局、手芸部のファッションショーには間に合わなかった……。
「いいのよ、それより大変だったわね。怪我はない? 大丈夫?」
「知ってたんですか」
「流ちゃんが拉致されたって大騒ぎだったのよ! 心配したわよねえ?」
と言って部長が振り返る先には、なんと会長がいた。気付かなかった。
「巻き込まれてんじゃねえよ」
会長は気まずそうに視線を逸らした後、ごん、と軽く俺の頭を殴ってくる。痛くない。
「すみませんー」
「癪だが城戸のヤツが何とかしているはずだ。癪だが」
あ、2回言った。本当に仲悪いなあ。
風紀委員長があの場にいたのは、会長の指示ってわけか。そりゃそうだ、会長が会場からいなくなるのは問題がある。
「花田部長、自信作だったのに。ごめんなさい」
「流ちゃんのせいじゃないわ。でも、代わりの衣装を着るしかないわよね」
うっ、やっぱりそうなるか。
すごく心苦しくて、いっそ着ぐるみでもなんでもいいっていう気持ちになる。
「安心して、もう用意してあるから」
さすが我らの花田部長。
ばちっとウィンク(やっぱりイケメンはウィンクが似合う)をして、部長が手にしたものは――真っ赤なチャイナ服(女性用)。うん、前言撤回していいかな?
「実はね、この衣装も出したかったのよ~。流ちゃんなら身長もぴったり、足も長いし、映えると思うわあ」
真っ赤な記事に竜の金刺繍が施されている派手なチャイナ服に頬ずりしながらうっとりと花田部長が言う。うわあ。
「いいんじゃねえか」
会長は明らかに”笑うのを我慢しています”って体で頷いている。他人事ですもんね、わかるー。
「うう、似合わなくても笑わないでね……」
もう、文句は言えません。
その代わり、改めて、あの金髪ヤンキーズを恨む俺だった。
採寸したわけでもないのにぴったりのチャイナドレス(スリットがリアルでイヤだ。足がスースーする)、白いもふもふのストールを肩にかけ、黒髪巻き毛のウィッグに、真っ赤な口紅が目立つ派手めなメイク(演劇部御用達のメイクアップアーティストのたまごくんたち二人掛かりでしてもららった。マスカラとかアイラインとかすごくくすぐったい)で、ヒールが高い赤い靴を履かされた俺は、ぐらつく足に堪えながら控え室から出る。
待っていた花田部長と会長の視線が、痛い。
「ど、どーもー」
作り笑いをしたら、花田部長がいきなり拍手をし出した。
「すごい! すごいわ流ちゃん! 予想以上よ! 似合ってる! 似合ってるわ! うっ、自分の才能が憎い……!」
「え」
「悪くねえな」
「え」
「す、鈴宮さん、すごいです!」
「え!?」
花田部長のテンションに戦慄いて、会長がさらりと頷くのにびっくりしていると、横からもう一つの声が聞こえてさらに驚いた。その声の持ち主は、今日初めて会う剣菱くん、……だよね?
疑問形なのは、剣菱くんが――純白のウェディングドレスを着て、白いヴェールを被っていたからだ。わあ。清楚系のメイクもばっちり似合っている。ただでさえ大きな丸い瞳が、アイラインで縁取られ、睫毛もばっちり濃く伸ばされて、キラキラしている。輝く瞳で見つめられ、その勢いに圧倒されていると、ごほん、と聞こえる咳払い。
「美しさでは俺の勝ちだ」
うん、剣菱くん在るところに、副会長在り。知ってた。
そう豪語する副会長は、――女装じゃない。こっちは純白のタキシードに身を包み、いつもはまとめている長い髪を、黒い短髪のウィッグで隠している。そういえばこの人は男性だった、はずだけど。男装に見えるのは何故だろう……。そして、剣菱くんと対になった衣装に、この二人って付き合ってんのかな、って思ってしまう俺だ。
「結婚おめでとうございます……?」
「ふっ、よくわかっているじゃないか」
「ちちち違いますー、これはその、企画の衣装で、そのまま」
ああ、そういえば、剣菱くんと着せかえツーショットなんて企画があったような。女子高生、花嫁衣装、メイドさん、その他諸々から好きな衣装を選んで剣菱くんと写真が撮れるっていう……副会長が許可を出した企画……はっ、もしかして。
「副会長って今、お客さんなの」
「この衣装でコンテストに出るまでが依頼です……」
「わあ、熱烈」
本当に、剣菱くんのこととなるとなりふり構わないお人だなあ。
得意げに決めている副会長をちらりと見た。
「うっわ、流、どうしたそれ、めちゃくちゃ美人じゃん!」
そして後ろから聞こえる、聞き慣れすぎた声。
「うわーやだー見つかったー」
し、雫には見られたくなかった……。
そう言う幼なじみは、イケメン喫茶とやらのアイドルっぽい衣装のまま、ここにいる。
「雫こそ、見に来るだけじゃなかったの」
「五人揃ってイケメンレンジャーなんだと」
「何それ……」
「ちなみに俺、ブルーな」
この男、ノリノリである。
首に巻いた青い布を示して親指を立てる姿に、息を吐く。
「うん、カッコイーカッコイー」
「流の美しさには負けるわ」
そう言ってスマホを翳し、ぱしゃぱしゃ連写するのはやめて欲しい。
――なんだかんだ、大集合って感じだ。
写真を撮り続ける雫、剣菱くんの衣装チェックに余念がない副会長、花田部長は手芸部お手製の衣装を着た参加者たちのチェックをしている。黒髪ロングの清楚系な女の――子、っていないはずだよね、ここに。静かに佇むその子は、妙なオーラがある。シンプルな白いワンピースと麦わら帽子も、花田部長の作品みたいだ。一言二言交わして、また素っ気なく俯いている。
つい、その子に視線を向けていたとき、「そろそろ始まります、準備の方お願いしますー」と、実行委員の声が聞こえた。ぞろぞろと参加者たちが動き出すから、俺も後に続こうとしたとき、後ろから肩を掴まれる。
「お?」
見上げると、そこには難しい顔をした会長の姿。
「なに、どしたんすか」
「あー……なんだ」
「なに」
「似合ってるぞ」
「えっ」
「袖で見てる」
「あっ、はい」
すぐに翻して去って行く会長。
会長は出ないんすか、って聞くタイミングもなかった。
なんだかんだ人気のある会長だから、表に出たら喜ぶファンもいるだろうになあ。
――仮装コンテストのルールは簡単だ。参加者が一人ずつ前に出て、衣装を見せる。ただし、言葉は喋ったらいけません。判断基準は、見た目オンリーという非常にシンプルでわかりやすいコンテストだ。
審査方法は観客からの投票と、特別審査員からの投票の合計だ。高い人が優勝する。優勝者には、超豪華な賞品(今年は確か、島内の店で買い物ができる10万円分の商品券だ。けた違いすぎない?)と、希望があれば芸能界デビューが待っている。実際、過去何人も芸能人を排出していて、現に今回も特別審査員枠で今をときめく俳優のOBが参加していた。
番号を呼ばれたら、ステージに立って、くるりと一周したり、もしくは決めポーズを取ったり。声が出せない分、動きでアピールするしかない。グループで登壇しても良いルールにはなっている。
俺は5番、真ん中の方だ。相変わらず元気のよい、放送部の実況担当くんのアナウンスを聞きながら、特別審査員の皆さんを見た。
審査員は五人いる。今をときめく俳優さん、姉妹校の女子校の生徒会長さん(かわいい系だ)、すごく困っているような現国の久瀬先生(久瀬先生は真面目で若い感じの先生だ、場違い感半端ない)、アロハシャツが目立つ元生徒会長(いつの間に)、そして、難しい顔で腕を組んでいる――現、生徒会長。
「えっ」
思わず声を出しちゃった。
さっき、袖で見てるって言ったじゃん。
現旧生徒会長夢の競演です、なんて実況役の元気な実況が遠くに聞こえる。確かに、すげー豪華なメンツ、かもー。
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