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第5章 パーティ! (1)

1  私立桃華学園には、ある伝説がある。  曰く――ダンス・パーティで最後に踊るカップルは、永遠に幸せになれると。  孤島にある全寮制の男子校という閉鎖的な空間で、一年に一度、全員に平等な出会いが訪れる。それがこの、所謂ダンパだ。姉妹校である女子校との共同企画で、学年ごとに三日間に分かれて行われる。有名企業のご子息ご令嬢が多く通う学園だ、社交場に出たときの嗜みとして、エスコートのし方され方なんてのを学ぶいい機会になるらしい。  一般家庭出身の俺にはほど遠い世界の話だが、女の子とお近づきになれるのは素直にうれしい。去年はかわいくて後腐れがなさそうな子を探し、遊んだものだった。懐かしい。  一日目は一年生、二日目は二年生、そして三日目は三年生と、様々相手を変えて踊ったり喋ったりと交友を深めていくのだが、三日目の夜が勝負のときだ。三年生が終わった後、フリー・タイムがある。気に入った相手がいたら、この時間に誘って、承諾を得れば一緒に踊ることができる。つまりそれは、よければこれからも仲良くしましょうってな、おつきあいの第一歩ってわけだ。告白代わりのお誘いがうまくいけば、男女不純交遊の始まり始まり。  しかしこれ、競争率が高い。フィーリングがぴたっと合う二人ならいいけれど、大抵は第一印象、つまり見た目で決まるわけ。美男美女はお申し込みが殺到で、見事破れて「もう恋なんてしない」とトラウマになる者も多数っていう、シビアな企画でもある。さらに言うと、今まで同性で付き合ってたのが女子の介入によって崩壊したり、また逆も然りっていう、修羅場の生まれる場でもある。――そんな中で、見事思い人と踊れることができたなら、永遠の幸せを手に入れることができるっていうのは、わりと信憑性があったりする。  ――俺?  もちろん去年は、フリータイムに参加する暇なく、しけこんでました。なんつって。  で、その華やかなダンス・パーティを誰が企画・運営するのかというと。 「――生徒会(俺たち)なんだよねえ……」  うん、さすがにもう慣れました、この感じ。  目の前には何枚もの書類、パソコン、カタカタカタ。  いくら打っても終わりが見えない。つらい。  でも、今回ばかりは、弱音を吐いていられない。  何故なら。 「ねえ会長、いつだっけ、打ち合わせ!」 「今週末」 「超がんばらなきゃだよねマジで!」  姉妹校の女子校の生徒会の皆様が、打ち合わせをしにくるからだ。  今パソコンに向かっているのも、そのときの資料を作るため。  手を抜くわけにはいかない。 「本当に」 「女好き」 「だねえ」「ねえ」  顔を見合わせてため息を吐くのは双子だ。  ヤレヤレって顔、やめて。 「鈴宮、さん」 「なあにー」 「これ、間違ってます」 「あっ」  本当に平良くんは優秀です……。  印刷した資料の予算部分を指さして指摘してくるこの平良くん、最近はすっかり、剣菱くんに現を抜かすのをやめたらしい。  双子や副会長が剣菱くんにちょっかいをかけているのを、一歩引いてにこにこ穏やかに見守っているのは、余裕がある。  その様子に、ピンとくるものがあった。  ずい、と平良くんの耳に顔を近づける。 「ねえ、平良くんさ」 「はい」 「カノジョ、できた?」  こそっと囁くと、ぼん、と音が出そうなほどに平良くんの顔が真っ赤になった。え、マジで。  予想外のリアクションに、二の句が紡げない。 「おい鈴宮」 「はい」 「パワハラでセクハラはやめろ」 「えっ」 「本当に流、キミって」 「デリカシーがないね」 「ね」  真っ赤な顔を両手で覆う平良くんを後目に、総攻撃される俺。  そ、そんなに悪いことしたかなあ。 「ふっ、これで剣菱を狙う魔の手が一つ減ったというものだ」 「平良くん……」  副会長が剣菱くんの肩を抱いて嬉しそうに言ってる。  剣菱くんは平良くんをちらちら見て、すごく気にしているみたいだ。  先を越された、……なんてのは思わないのかな、みんなの剣菱くんは。 「お、俺のことはいいですから、早く仕事してください……」  まだ顔を赤くしてる平良くんが、一斉に注目される雰囲気に堪えかねて、か細く言う。  もし、相手は誰、とか、どんな子、とか、いつから?とか、質問責めでもしようもんなら、倒れちゃいそうな雰囲気だ。  仕方ない、いつの日か自分から伝えてくれるのを待つことにしよう。  うーん、俺ってばいい先輩。

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