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第一章 あの子の涙からいい匂い。
「……」
たぶん、この学校のやつらは心が穏やかなのだ。もしくは俺がひねくれ者。そうでないと、どうしても納得出来ない。
「このくらいの点数、当然だよ」
「芹澤くんやっぱ頭いいな~! 尊敬する!」
――芹澤 涙 。この学校の生徒会長。眉目秀麗・文武両道の完璧人間。しかしもう一つ余計な四字熟語がこいつには付く。――「唯我独尊」。こいつはとにかく自信家で、自分以外の人間を見下しているのだ。
いくらできる人間でもこんな性格だと嫌われるのが普通だと思うけれど……なぜかこいつはこの学校でファンクラブができるくらいに人気がある。それが俺は納得出来ない。こいつはどう考えても性格が悪くて、人から好かれるような人間ではないと思う。だから周りの生徒の性格がすこぶる良いか、俺がひねくれているからこいつが性格悪く見えているだけ……そう思うことにしている。
あいも変わらず自慢ばっかりだなあ……と、遠目から芹澤の満点自慢を眺めていれば、奴がそんな俺の視線に気付いてしまった。俺が咄嗟に「ゲッ」って顔をしたのも悪かったかもしれないけれど、奴は舌打ちでもうったような顔をして、俺を冷めた目で睨んでくる。
誰のことでも見下している芹澤――でも、俺のことは見下しているんじゃなくて、嫌っていると思う。俺は他の生徒みたいにチヤホヤしてやらないし、それにいわゆる「不良」に属する生徒だから。残念な性格でも一応真面目な生徒である芹澤にとって、俺みたいな生徒は害虫みたいなものだろう。
俺達はお互いにお互いを嫌い合っている、犬猿の仲みたいなもの。高校に入学して芹澤に会って二年経つけれど、わりとはじめの方からウマが合わない。……きっとこれからも、俺はこいつを好きになることはないと思う。
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