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学校が終われば、俺には自由な時間が訪れる。俺は部活には所属していないから、放課になってしまえば何にも囚われない身となるのだ。適当に友達とボーリング行ったりカラオケ行ったり、自由に過ごしている。今日は友だちとゲーセンに来ていて、ちょっと小腹が空いたということで俺は一人コンビニまで来ていた。
ゲーセンから近い、ごちゃついた町並みのなかにあるコンビニ。俺はそこで缶コーラと唐揚げ棒を買って、その買ったばかりの唐揚げ棒を頬張りながら店から出て行く。静かなところで休みたいなともちょっとだけ思っていたから、建物の影に入ってしゃがみこんで休憩をとることにした。
「……?」
唐揚げ美味いな~と単純な感想を頭に浮かべながらコーラを開けようとしたときだ。奥の方から、人の声が聞こえてくる。妙に騒がしいその声は……喧嘩でもしているのだろうか。人気 がない場所ではあるけれど、一応町中なんだからこんなところで喧嘩すんなよな……と俺は呆れていたけれど、「いや」とか「たすけて」とか聞こえてくるから、どうやら一方的に誰かが襲われているらしい。
正直、あんまり関わりたくない。俺は見た目とか素行とかで不良の括りに入っているけれど、暴力は好きじゃない。ただ、聞こえてくる拒絶の声が泣きそうな声で、これを無視したら後からモヤモヤと引きずるだろうな……と俺は重い腰を上げる。これ仲裁とかに入ったら殴られたりするのかな……とうんざりしたけれど、死にはしないだろうと腹をくくって声の聞こえる方に向かっていった。
「――え?」
建物の角からソレを覗きこんで、俺は思わず声をあげてしまう。俺は、ひ弱な男あたりがカツアゲされていたり殴られていたりするのかと思っていたから――まさか、レイプされかけているとは思ってもいなかったのだ。一人の大柄の男が少年を後ろから羽交い締めにしていて、その正面に立っている男が少年の服を脱がしている。少年は顔はよく見えないけれど、バタバタと藻掻いていて本気で嫌がっている。止めないと、そう思うけれど恐怖心が邪魔をして動けない――けれど、あることに気付いた時、俺の腕は勝手に動いてしまっていた。少年の着ているのは、俺の高校の制服だ、ということに。
「――あ?」
持っていたコーラを、思い切り投げてやった。命中することはなかったけれど、それが思い切り音を立てたから、男たちはバッと俺の方を見る。
「――やべえ!」
口封じとか言って襲われることを予想していたけれど、男たちは案外あっさりと逃げてしまった。よくよく見てみればズボンにテントがはっていたから、チンコおっ勃てたまま喧嘩なんてできないと思ったのかもしれない。
男たちに襲われていた少年はずるずると壁にもたれかかるようにしてしゃがみこむ。体が小さく震えていて、怖かったんだな、と思うと思わず彼のもとに近づいていってしまった。「大丈夫?」って声をかけようと、彼と同じ目線までしゃがみこんで俺は息を呑む。
「……藤堂?」
「……え、芹澤!?」
少年は、芹澤だった。もう、俺の頭の中はパニックだ。まず、知り合いが男にレイプされていたとか。あの唯我独尊俺様野郎の芹澤が、こんなに……こんなに、弱々しく小さくなっているとか。
ボタンを引きちぎられてはだけてしまった襟から、鬱血痕の付いた白い肌が覗く。うわ、見たくねえと思って俺は目を逸そうと思ったけれど、それはかなわなかった。その、強力な引力に視線が縫い留められてしまったのだ。
「……なんで、ここに、いるんだよ」
「えっ……た、たまたま!?」
――その、涙。
初めて見た、芹澤の涙。綺麗な瞳からぽろぽろと宝石の欠片のような涙がこぼれ落ちていて、ぞっとするくらいに美しかった。嫌いな俺にレイプ未遂現場を見られたことが悔しいのか芹澤はキッと俺を睨んできているけれど、そんな憎たらしい表情をみせつけられているというのに俺の身体は熱くなっていく。お礼くらい言いやがれ、そんな嫌味も出てこない。ただ、もっと見たいとそんな想いが俺を支配していく。
「なっ――」
俺は芹澤の両脇に手をついて、俺と壁の間に閉じ込めてやった。芹澤は涙で濡らした瞳を見開いて、驚いたように俺を見つめる。
「……怖かったんだ?」
「こ、……こ、怖くなんて……!」
もっと、その目を見つめたかった。俺を見て震えているその姿が可愛くて、じっと距離を詰めて見つめてしまう。
「やっ……やめろ!」
芹澤は、思い切り俺を突き飛ばして怒鳴ってきた。俺も芹澤の瞳を見つめるのに夢中になっていたからそのままふっとばされてしまって、マヌケなことに尻もちをついてしまう。
「い、痛えな! 何すんだよ!」
「何するんだはこっちのセリフだろバカ!! 死ね! 死ね! ふざけんな!」
「……あ、」
芹澤の目からは、涙がぼろぼろ。さっきよりもたくさんの涙が溢れだしている。
――うわあ、すっげえ可愛い。
それが、俺の頭に浮かんだ言葉だった。唯我独尊俺様野郎芹澤が、俺に見つめられて、その恐怖で泣いている。俺の前で、こんなにか弱い姿をさらけだしている。この世界で、こんな芹澤を知っている人間はどれだけいるのだろう――それを思うとたまらない優越感が俺の中を満たしてゆく。
芹澤は、そのまま俺に背を向けて逃げ出してしまった。俺はそんな芹澤の背中を眺めながら、自分の心臓がばくばくといっているのに気付く。
俺は、あいつの泣き顔でものすごく興奮してしまったらしい。あの小憎たらしい生徒会長が泣いている姿を、可愛いって思ってしまった。
「……やべえな」
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