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第二章 触って溶かしてあげましょう。
早朝の学校は、静かだ。いつも廊下にはだべっている生徒が沢山いるのに、朝の学校となるとそれがほとんどない。みんな教室のなかで静かに過ごしている。
俺が、こんな時間に学校に登校するのは久しぶりだ。朝は二度寝してから家を出るを信条にしている俺が、早く起きてわざわざウザい満員電車に乗ってしっかり登校したのにはわけがある。
「この問題がわからないの? 簡単でしょ、ここは……」
「……おはよー」
「……」
教室の中で、いつもと変わらず俺様っぷりを発揮していた芹澤。俺をみるなりビジッと固まって、持っていた教科書をバザバサと落として、化け物でも見たような顔をしてみせる。
そう、俺が早く登校してきたのはこいつのためだ。いいオモチャをみつけたし、せっかくだからちゃんと登校して丸一日遊んでやろうと思ってきた。
「なっ……なんでこんな時間に登校してきてんだよ!」
「いやいやいつも遅刻すんなって言ってるくせにそれはないっしょ」
「う、うるさい! 俺はおまえの顔が見たくないんだよ!」
「ひえー、ひでぇの」
俺が一歩一歩足を進める度に、芹澤の肩がビクッ、ビクッと震える。相当ビビっているらしい。目付きはいつもと変わらない憎たらしいものだけれど、明らかな緊張っぷりが笑いを誘う。
「……ふんっ、あんだけ遅刻ばっかりだし、てっきり藤堂家の時計が二時間遅れているものだと思ってたから、ちゃんと時間合ってるようで安心したよ」
「へーへー、心配してくださってたんですね、どーも」
「誰がするか!」
でも、その俺様な態度は健在だ。あくまで俺に下る気なんてなさそうだし、それにこうして他の生徒もみているなかで他人にビビっている姿なんてみせられないだろう。
嫌味ばっかりのむかつく奴。でも、こいつはそれでいい。こうして反抗的な奴のほうが、泣かせがいがあるから。
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