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その日は一日中、芹澤のことを目で追っていた。朝の出来事がとにかく気になって気になって仕方なかった。
春原の言っていたことだ。たしかに芹澤は口が悪いところがないとも言えないが、あんなことを言われるほどのものではないと思う。なんらかの理由で俺を芹澤から引き離したかったのだろうか、そんなことを疑ってしまう。
そして、今日、芹澤が春原の家にいくということ。俺が芹澤にしているようなことを春原がしたらどうしよう。そんなことを考えて焦ってしまう。芹澤の春原に対する態度からすれば……何をされても受け入れてしまいそうだ。芹澤が春原の下で乱れることを考えると……気が狂いそうになる。
「藤堂。どうした? なんか今日、ぼーっとしてない?」
「……横山」
あんまりにも芹澤のことを見ていたからだろうか。不思議に思ったらしい横山が、俺に声をかけてくれた。
「えー……いや、自分がわかんないなあって」
「自分がわかんない?」
「いやね、気に食わなかった奴なんだけど、そいつのことをすっごく可愛いって思ったり、他の奴にとられそうになると無性に腹が立ったりするんだよね」
俺はぼんやりと、心の内を吐露してみる。ほんとうに最近の俺はおかしくて、芹澤のことが欲しくて欲しくてたまらない。あいつのことは嫌いなはずだったのにどうしたんだろうって、そう思う。
でも、横山はそんな俺の言葉を聞くなり笑い出した。何笑ってんだよって睨んでみると、「ごめんごめん」と悪く思ってなさそうに謝ってくる。
「それって、好きなんじゃない?」
「……好き」
「どう考えても好きだと思うなあ。いや藤堂がこの歳になってそんな可愛いこと言ってくるなんてびっくり」
「どういうことだよ!」
「だって、藤堂ってそれなりに彼女とかいたじゃん? なんで今更自分の恋に気づけないのかな~って」
「恋っ!?」
俺は横山の言った言葉に思わず立ち上がった。クラスメイトの視線を感じて恥ずかしくなってすぐにすわったけれど、とにかくびっくりしてしまった。だって、俺が芹澤に恋をしているなんて、信じられない……けれど全く心当たりがないわけでもなく。俺が芹澤にときどき思っていたキスしたいとか抱きたいとかは、普通に考えて完全に恋心からくる感情だ。
「で、でもさ、相手は男で……」
「えー、別にいいんじゃない」
「違う違う、俺はべつに芹澤のことなんて……あっ」
横山の言葉を否定するあまり、うっかり名前を出してしまう。そうすると横山は、「はーん」なんて言ってにやにやとし始めた。
「なるほどね、なんかわかる」
「わかるって何が!?」
俺は必死に否定したけれど、イマイチ否定しきれていない気がする。本当のことを言うと、自分が芹澤に恋をしているということに納得し始めていたからだ。
どうしたものかな。俺は頭を抱えたくなった。自分が芹澤に恋をしているなんて認めたくなかった。でも……認めたくなくてもどうしようもなくなってしまうのが恋ってもので。ちらりと視界にはいった芹澤に、また、どきりとしてしまった。
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