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 今日も二人で学校に登校して、俺はすっかり青春を満喫した気分でいた。芹澤も文句を言いながらも昨日よりも俺との距離を縮めて歩いてくれていて可愛らしい。 「今日は、どうするんだ?」 「……何が?」 「うち来るのか、って」 「……生徒会あるし……」 「えー、いいよいいよ、終わるまで待ってるからさ。駅で待ち合わせでも――」  なんで俺はデートの待ち合わせをするカップルみたいな会話をしているんだ、って思ったけれど、なんだかウキウキするから良しとする。芹澤も「いきたくない」と言わずに「生徒会があるからいけない」みたいなことを言ってきたから、ちょっと嬉しかった。ただ、そんな俺の快然たる気持ちを、上から降ってきた声がぶち壊す。 「――良くないんじゃない、藤堂くん。そんな遅くまでふらふらしているのはさ」  階段を昇る俺たちの先に――一人の男。春原だった。春原が、朝に相応しい爽やかな笑顔を浮かべながら俺たちを見下ろしている。 「生徒会が終わるころには日が暮れるよ。藤堂くんって部活とかやってるわけじゃないんでしょ。早く帰ったほうがいいんじゃない」 「……友達と遊んでるし生徒会が終わるまで待ってる分にはいいんだけど」 「そこまでして涙と待ち合わせする必要ある?」  春原は階段を一歩一歩降りてきて、俺達の側までやってきた。 ――待ち合わせする必要なら、ある。俺の家に呼ばなければ、芹澤は夜遅くまで外をふらふらとすることになる。それが危ないから家に来て欲しい、それが俺が芹澤を家に誘う理由だ(ほかにも、一緒に家ですごしたいっていう思いっきり俺の欲望も含まれているけれど)。ただ、それを春原に言うのは気が引けた。芹澤が夜に街をふらふらしていたなんて、あんまり口外すべきことではないと思ったからだ。 「あ、もしかして涙……家に帰れない?」 「……!」  俺がなんて答えようか迷って黙りこくっていれば、春原がいきなり答えに近いことを言ってくる。なんだこいつ、ってびっくりしてしまった。家に帰れないなんてそんな理由、咄嗟に思いつくものだろうか。当てずっぽうで言うならもっと、「藤堂の家で遊びたいから」とか、そういった普遍的なものがあるはずなのに。 「じゃあ、俺の家にきたら? 同じ生徒会のメンバーの家にいくのが一番良いよね」 「えっ……」  春原は当然のようにそう言って、芹澤を見て首をかしげた。そんな春原をみて芹澤は、前の懐いた猫のような顔はどうしたのかぎょっと顔を強ばらせて一段後退する。そういえば芹澤と春原は特別仲がいいわけでないと聞いていたから……そんな微妙な関係の彼に家に誘われて怖気づいているのだろうか。  しかし春原は、そんな芹澤の怯えを無視して、すっと芹澤の横までやってきた。そして、ぽん、と肩を叩いて言う。 「じゃ、そういうことで。涙、今日はうちにいこうね」 「えっ……で、でも……」 「大丈夫大丈夫、遠慮しないで。そうだ、生徒会室の鍵、涙が持っているんだよね。この荷物置いてきてくんない?」 「……あ、……うん」  ヘタしたら俺よりも強引に、春原は芹澤を家に誘うことに成功してしまった。本当にこれでいいのかと思いつつ、ここで無理に止めることはできない。特に止める理由が思い浮かばないからだ。あるとしたら、春原に芹澤をとられたくない、といったことくらい。    芹澤は春原の誘いを拒否できないようで、春原から荷物を受取ると無言で階段をかけ登っていく。ああ、今日は春原にとられた……と俺が意気消沈していると、春原がじっと俺を横目で見つめてきた。 「……藤堂くんってさ、涙のことどう思ってるの?」 「えっ……ど、どうって?」 「いや……友達でも親友でもなんでもいいけれど。好意的な感情を、涙に抱いている?」  春原の瞳は、恐ろしく冷めていた。……こいつ、こんな目をするのか、ってびっくりするくらいに。いつもの爽やかな雰囲気なんて消え失せていて、今の春原からはどろっとしたおどろおどろしい空気が漂っている。  俺は、春原の問に迷ってしまった。春原がいつもと全く雰囲気が違うせいで混乱していたのもあったけれど、俺は自分が芹澤をどう思っているのか、自分自身よく理解していなかったのだ。ほんのすこし前までは俺様で生意気な感じの悪いスカシ野郎だと思っていたけれど……芹澤と話すときに楽しいと思うくらいには――俺は、芹澤に好意的な感情を抱いていると思う。 「……まあ、それなりに、……すきだと思う」 「ふうん……」  ぐるぐると迷いながら俺が答えれば、春原はため息をついて頭をかいた。じっとりとした春原の雰囲気が、さらに湿気を帯びていく。なんだか思ったよりも不気味なやつだな、と俺がギクリとしたときだ。春原が、階段をまた昇ってきて、俺とバチリと目を合わせてきた。 「――やめておきなよ。涙はやめたほうがいい」 「は……?」 「一緒にいると藤堂くんがつらい目にあうかもよ」 「なっ……それ、どういう意味、」  春原はわけのわからないことを言い捨てたかと思うと、そのまま俺に背を向けて去って行ってしまった。  俺は、ただ呆然と立ち尽くすことしかできなかった。春原の言っていることの意味が理解できなかった。 ――俺がつらい目にあうって、なに。芹澤のどこにおかしいところがある? そもそも、春原は芹澤に優しくしてやっていたはずなのに、そんな風にまるで芹澤のことを貶すような言葉をどうして言う。  春原の言動の何もかもが理解できなかった。そして、俺の知らないことを春原が知っているのが、無性に腹が立った。  もっと――もっと、芹澤のことを知りたい。あんな、春原の言葉をきっぱりと否定できるくらいに。

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