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 家につくと、まっすぐに俺の部屋に向かった。まだ、時刻は6時を少し過ぎた頃。家族は寝ているからそっと俺の部屋に入って行く。 「わっ」  部屋に入って扉を閉めた瞬間、俺は芹澤を後ろから抱きしめた。そうすると芹澤は硬直して、挙動不審になってしまう。 「えっ、ちょっ、と、藤堂っ……!?」 「んー、ごめん。チャリ乗ってるときから芹澤のこと抱きしめたくてしょーがなかった」 「だっ、抱きしめ、……とかいつもしてるじゃん、」 「恋人になったらいつもに増して芹澤のことが好きになっちゃって」 「ば、ば、ばか……こ、こいび、と……だけど、……」  後ろからみてもわかるくらいに芹澤は真っ赤だ。心臓もものすごくバクバクいっていて、こっちもつられてバクバクしてきてしまう。それはもう、胸が痛むくらい。  芹澤は恥ずかしがるように口元を手で隠して、俯いている。「こいびと」って言った時の芹澤の声の震えが尋常じゃなかった。ああ、そういえば……芹澤の話から推測するに、俺は芹澤の初の恋人になるわけだ。こうして触れ合うことすらも、初めてになるのかもしれない。 「芹澤」 「あっ、……はいっ……」 「はい、ってなんだよ、可愛いな芹澤。あのさ、俺、芹澤の恋人だよ」 「っ……う、うん……わかってるし……」 「大好きだから。ね、こっち向いて。キスしよ」 「へっ……」  愛して愛して、とにかく芹澤に愛されることの幸せをちゃんと感じて欲しい。今まで付き合ったことのある人にここまで甘い言葉を言ったことはないけれど、芹澤にはチョコレートドリンクにはちみつをたっぷりいれるくらいの勢いで甘々に接しようと決めていた。結構恥ずかしいけれどやってみると楽しい。芹澤に愛を囁やけば囁くほどに、芹澤のことを好きになる。愛おしさが溢れ出す。 「顔上げて。目を閉じて。」 「……ッ」  俺の頼みに応じてゆっくりゆっくりとこちらを向いてくれた芹澤は、顔をゆでだこみたいに真っ赤にして目元に涙を浮かべていた。そして、きゅっと俺の胸元を掴むと、濡れた瞳で俺を見つめてくる。すさまじい勢いでドキドキといっているのがわかるくらいに芹澤の呼吸は浅く、「は、は、」と短いリズムで吐息が唇から吐き出される。 「じゃ、キス。するね」 「んっ……」  もう俺まで緊張してきた。ゆっくりゆっくり顔を近づけていって、徐々に瞼を下ろしてゆく。ドクン、ドクンと心臓の高鳴りがうるさくて、口から飛び出してきそうだ。  芹澤の目が完全に閉じられる。それと同時に俺は芹澤に口付けた。ちゅ、と唇を重ねて、芹澤の腰を抱き、そして頭を支える。 「もっとするからな」 「あ……」  一回じゃあ足りない。俺は芹澤に何回もキスをした。優しく、でも食べちゃうくらいの勢いで。  芹澤はキスの回数を重ねれば重ねるほど、とろんとしてくる。身体からは完全に力が抜けて俺に身を委ねているし、顔もすっかり蕩けていて色っぽい。唇を重ねるごとに「あっ……」と儚い声が溢れてゾクゾクする。 「んっ、……んん、……」  もう、夢中でキスをしていた。崩れ落ちそうになっている芹澤の腰をぐっと支えて、込み上げる愛おしさをぶつけた。でも、次第に芹澤の脚がかくかくとし始めて、さすがに限界かもって思って唇を離す。そうすると芹澤は口元を手で覆いながらへなへなと座り込んでしまった。 「ば、……ばか……きす、しすぎ……」 「嫌だった?」 「うう……ばかー……」  キスで腰が砕けるとか可愛いな。ぴくぴくと震えてしおらしく蕩けた表情をしている芹澤をみていると、もっとキスをしてやりたくなる。ただこれ以上やったら俺の理性もぷつんといってしまいそうだな、と思ってその衝動は押さえ込んだ。 「よいしょ、」 「う、ん……」  とりあえずここで二人でしゃがみこんでるのもな、と思って芹澤を抱きかかえてベッドに向かう。思えば俺たちは睡眠不足で、それに気付けば眠気もやってくる。いったん寝たほうがいいかな、なんても思った。  ベッドに二人で転がって、布団をかぶる。俺が腕を出してみれば、芹澤は少しもじもじとしたあと、遠慮がちに頭を乗せてきた。夢の腕枕だ……なんて俺は一人で舞い上がってそのまま抱きしめると、芹澤も俺の背中に腕を回してきゅっと抱きついてくる。 「なあなあ芹澤」 「な、なに……?」 「二人のときは名前で呼んでイイ?」 「なっ、名前……!? いっ……いいけど……」  芹澤は目をきょろきょろとさせながら、俺の問いに頷いた。可愛いな、って思って額にちゅっとキスをすると、「うー」と唸って俯いてしまう。 「へへ、おやすみ、涙」 「……っ、」  前にも名前で呼んだことはあったけれど、やっぱり「涙」って響きはいい。何回でも呼びたくなるけれど、おやすみしないとと思って俺は目を閉じる。 ……が。唇に何かが触れて、すぐに目を開けることになった。 「おっ、おやすみ、結生……!」 ……もしかして、おやすみのちゅーをされたのか、今。耳を赤くしてすぐにまた俯いた芹澤の姿にそれを確信する。  な、なんだこれ、可愛すぎか!  芹澤をどろどろに甘やかしてやろうって思っていたけれど、ときどきされる不意打ちに俺も大ダメージだ。寝ようって思っていたけれど、二人でドキドキしてしまって、結局寝入るのにしばらくかかってしまった。

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