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「怖い?」
「えっ……怖い、というより……できない、気がして」
「触らせてくれればいいよ。涙はじっとしてて」
「……」
もう、自分のことはどうでもいいから、怖いとか、そういった気持ちはない。ただ、やり方がわからないから、乗り気になれなかった。だから、ゆうが、リードしてくれるなら……いいかな、なんて、思ってしまう。
「……じゃあ、……いいよ。しても、いいよ」
「……力、抜いてて」
承諾すれば、ゆうはふっと微笑んで、俺にキスをした。そして……シャツをめくりあげて、上半身を撫で上げる。ぞわぞわとして、俺はぎゅっとシーツを握りしめた。
「……ん、……ん、」
「楽にして」
「あっ、……ん、ぁっ……」
耳元で囁かれて、ゾクッとして、身体から力が抜けると、その瞬間に、ゆうから与えられる刺激が、一気に迫ってきた。心は、触れられることが怖いと、強張っているけれど、身体が、反応する。少し触れられるたびに、びくっ、と、腰が跳ね上がった。
わけが、わからなくなりそうだ。心と、身体が、ばらばら。心が、身体に、押しつぶされる。くらくらとして、息が苦しくなって……今の、自分がわからない。
「可愛い声。涙。」
「うっ、……あっ、ぁあっ、……ん、」
「もっと善くしてあげる、涙……声、だして」
「ふ、……あっ、ふ、ぁ……っ、」
下を、全部脱がされて、そして、それを、触られる。ゆうは、まだ堅くなっていないそれを握りながら、先っぽを親指でくりくりと円を描くように撫でてきた。
「んっ、んっ、」
ビクンビクンと腰が勝手に跳ねる。下腹部に、熱が、たまっていく。怖い、怖い、そう思うのに、身体が、勝手に、熱を求めている。
焦がれていた。あの、頭の中が真っ白になる、幸福感に。ゆうに、触られて、あの甘い感覚と同じものを得られるのかは、知らない。それでも、欲しかった。今の、空っぽの心は、空虚なその幸福感でも、求めてしまっていた。
ひどく、心は、傷んでいるのに。なぜか、心から、血が溢れ出しているのに。痛くて、痛くて、たまらないのに。欲しかった。
「あっ……ふ、ぁあ……」
「気持ちいいでしょ? これから、たくさんこういうことしてあげるからね」
「あぅっ……んん……あぁ、……」
声は、どんどん、出てしまう。腰が、淫らに、揺れてしまう。俺は、卑しい、自分が思ったよりも、卑しい人間だったのかもしれない。好きでもない人に触られて、こんな風になって。「インバイの子」という言葉を、拒絶する権利なんて、なかったんだ。
ああ、もう、ほんとうにどうでもいい。ずっと、こうして気持ちいいことをして欲しい。こうしている間は、頭の中がふわふわして、がらんどうの幸福感に満たされる。何一つ満たされない、幸福感に、満たされる。
「ちゃんと解してあげるから。痛くないようにね」
「あぁ……」
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