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――秋になった。  ずいぶんと、クラスメートたちも仲良くなってきたように思う。友達グループなんていうのもできていて、クラスの雰囲気というのもできてきた。客観的に見て、俺のクラスは少し騒がしい。先生の言うことを聞かない人たちが集まっている。別に俺はそういう人たちも話してみれば楽しいから、嫌いではないけれど。……でも、やっぱり、そんなクラスでは涙は浮いていた。それから、「山田くん」も。「山田くん」は避けられながらもたびたび罵声を浴びせられていて、でもそれがもはや当然みたいな雰囲気になっている。大きな問題にはなっていないため、もう先生も見てみないふり。俺もいちいち注意するのに疲れてしまって、正直それはどうしようもないのかな、なんて思っていた。 ……でも。  涙へのイジメは、かなり陰湿で酷いものだった。それを知ったのが、つい最近。俺が涙とよく話しているからと、クラスメートたちは俺にバレないようにと涙をイジメていたらしい。 「――えっ、春原きた」 「春原……帰ったんじゃないの?」  それは、俺が放課後に忘れ物をとりに教室へ戻った時のこと。クラスメートが数人集まっていて、その中心で涙が泣いていた。 「なにして――」  近づいて、そしてその惨状をみる。  涙の鞄に、大量の使用済みのコンドームがはいっていた。そして、そのコンドームが二つほど、座り込む涙の頭に乗っている。 「ねえ、春原聞いてよ。こいつ、鞄にこんなものいれてたんだぜ。さすがインバイは違うわ」 「……は? どうせ誰かが入れて――」 「いやだってさ、こいつ! みてよこれ! こんなことしてるんだぜ!」  クラスメートの一人、桑野がにたにたと笑いながら俺にケータイを突き出してくる。そこに写っていたのは――『芹澤 涙(18) エッチなことしてくれるおじさん募集しています♡』という文字と、それから……半裸の涙の写真。出合い系サイトというやつだろう。掲載されている写真は明らかに涙本人で……年齢以外は偽物の情報ではなさそうだ。 「こんなサイトでヤリまくりとか! 親子揃ってインバイってやべえよな、インバイのサラブレッド?」 「……」 「春原さ、芹澤と仲いいんでしょ? 頼めばヤラせてくれるんじゃない? 男だし中出しし放題、最高じゃない?」 「……誰だよこんなことしたの」 「……はい?」  ふざけたものを見せられて、俺は頭のなかが真っ白になった。怒りで血が昇って、まともにものが考えられなくなる。 ――気づけば、俺は桑野の胸ぐらを掴んで机に押し倒していた。周りにいた女子が、悲鳴をあげていたけれど、そんなことはどうでもいい。 「――誰だよ、言え! 涙に無理やりこんなことをして、脱がせたんだろ! 写真撮ったんだろ! それを、こんなサイトに……!」 「だから芹澤が自分でやったんだってば、インバイだし!」 「ふざけんな! 涙はケータイなんて持ってないし家にネットの環境はないんだよ! 誰かがやったに決まってんだろ!」  ……どうせ、桑野は吐かない。こいつはずる賢いやつだ、それを俺は知っている。案の定、桑野はバツが悪そうに黙っているだけで抵抗もしてこなかった。  俺は腹がたって、本当にムカついて、もう血が茹だるほどの怒りを覚えて。何も言わない桑野の顔を、殴ろうとした。後先なんて考えられなかった。こんなに腹がたったのは初めてで、怒りを抑えることができなかった。  腕を振りかぶる。目を閉じる、桑野。もう、こいつがどうなろうが知らない。思い切り殴らなければ気が済まない――そう思って、腕を振り下ろした、その時。 「……だめ、……ゆう……!」  後ろから、涙が俺の腕を掴んできた。力のない、かたかたと震える手で。俺が振り向けば、なみだに濡れた怯えた目で俺を見つめている。 「ゆうが、暴力ふるうの……いやだ、……」 「……涙」 「……やだ、……ゆう、やだ、」  ポロポロとまたなみだを流し、嗚咽をあげる。みんな、固まってそんな涙の様子を見つめていた。  俺はサッと血の気が引くのを覚えた。もしも今、涙に止められなかったら、俺は桑野を殴っていた。人に怪我をさせたかもしれない。 「……涙、ごめん」  俺は桑野から離れると、涙に向き直る。そして、涙の頭についた汚れをハンカチでとってやって、色々と入れられている鞄を持った。ぐすぐすと泣く涙の手をとって、唖然とする周りのやつらの間を、早足で歩いて行く。 「……いこ、涙。大丈夫だよ」

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