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――それからの日々は、地獄だった。 「……、」  俺は、「あの時」途中で意識を失ったらしい。ハサミは俺の脇腹を貫通していたが、内臓は幸い殆ど傷つかなかったようだ。……あまりにもショックが大きかったせいか、ところどころ記憶が飛んでいるけれど。目を覚ませば俺は病院にいて、事の顛末を聞かされた。  兄さんは、葉をレイプしたらしい。「最後まで」だ。葉は中1だし俺ともしたことがなかったから、それが「初めて」だ。「初めて」が、レイプ。葉は最中、兄さんに殴られていたようで、体に痣ができているらしい。アフターピルをつかったため、妊娠はおそらく免れるだろう……とのこと。しかし、精神状態は最悪で、病院では時折暴れ、叫び声をあげるらしい。  信じたくないことだったから、俺は上の空でそれを聞いていた。すぐに話を受け入れられなかった。 「……兄さんは、どうなるの」  げっそりと疲れた顔をした、母さんが俺を見つめている。聞いたところによれば、母さんが家に帰ってきたときには、俺が血まみれで倒れていて、葉が半裸でぼんやりと横たわっていて、部屋の真ん中で兄さんがへらへらと笑っていたようだ。 「……捕まる?」 「……まだ、わからない」 「……」  いくら身内でも、兄さんがしたことは許されることではない。実際、俺もふと殺してしまいたいと思うくらいに、兄さんのしたことは許せない。だから、きっちりと罰をうけるべきだ……そう思った。 「……」 「……祐志、」 「……ひとりにして」  俺は、何もできなかった。目の前で愛する葉があんなことをされているのに、動くこともできなかった。兄さんがあんな風になることを、予想もしていなかった。あの時もしも葉を1人にしていなかったら……  ただ、ただ、後悔が押し寄せる。葉は一生のトラウマになってしまったに違いない。だから俺も、一生をつかって葉に償わなければ……迷路のように、考えても考えても抜け出せない、苦しみだけが俺のなかにあった。

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