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「おかえり、裕志」
俺が退院したのは、クリスマスの3日前。家に帰ってみれば家にはクリスマスツリーが飾られていて、まるで何事もなかったよう。
母さんの言うところによれば、兄さんは起訴され、今は拘置所にいるらしい。いわゆる裁判待ち。レイプに傷害、確実に兄さんは何らかの罪に問われるだろう。
「おまえが無事でなによりだ」
「……うん」
「大丈夫、学校には本当のことは話していないからな。何があったかは、誰も知らない」
「……うん」
俺は、兄さんがどうなるのかが気がかりで仕方ない。それなのに、父さんはこれからの俺のことばかり気にしている。……俺のことを心配しているのではない。残った将来有望な息子の未来を確実にしたいのだ。兄さんのことなど、なかったことにしたいのである。
「……裕志。昨日、葉ちゃんが退院したんだって。会いにいってあげたら?」
「……わかった」
母さんは、どう思っているのだろう。父さんとは違って、色々と思い悩んでいるように見える。まだ、兄さんのことを自分の大切な息子だと、思っているのだろうか。そうであって欲しい。
前々から、食事は父さんと母さんと俺の三人でとっていた。だから、この光景だけを見れば前の生活に戻ったように思える。でも……確実に何かが、狂い始めていた。
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