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第十八章 “Tear”

『おかあさん。僕の名前、どうして「涙」なの? 「なみだ」って哀しいときに流すんだって、この間読んだ絵本に書いてあったよ』  暗い部屋で小さな背中を俺に見せて、俺から隠れるように化粧をするあなたを、俺はかつて「おかあさん」と呼んでいた。幼い頃、俺はあなたのことが大好きだった。あなたは、いつだって俺に優しかった。俺を、愛してくれた。  大きくなって、あなたのやっている仕事を知り、それが原因でいじめられるようになるまで。俺はずっと、あなたを「おかあさん」と呼び、あなたのことが世界で一番好きだった。 『私の、叶わなかった夢を、涙に託したからよ』 『夢?』  俺は、知っていた。  あなたは、俺を愛していた。大切にしてくれた。  けれど、俺は。いじめられた憎しみをぶつける相手がわからず、あなたに全てをぶつけていた。いつしかあなたを、世界で一番嫌いになっていた。 『「なみだ」は、嬉しいときにも流れるの。嬉しくて仕方のないときにも、流れるの。私はその「なみだ」を知らなかった。涙にはね、「なみだ」を流すくらいに「嬉しい」ことがいっぱいの人生を送って欲しいんだ』

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