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 しゅ、しゅ、とケトルから湯気が吹き出す音が聞こえる。いつも聞いているもの悲しい音とは違って、暖かい音。ああ、そうだ、ここは結生の家だから……この、「ケトルから湯気が吹き出す音」も柔らかいのか。  その音で、俺は目を覚ます。  結生が俺よりも早く目をさめたのだろうか……だとしたら、朝ご飯をつくる手伝いをしなきゃ。そう、考えた。  ……けれど。  結生は、目の前にいた。同じ毛布にくるまって、すーすーと寝息をたてながら、寝ている。  ……ということは。ケトルでお湯を沸かしているのは…… 「……っ、あ、あの」 「あら、おはよう。芹澤くん」  あることに気づいて、俺は慌てて体を起こす。目をやった先には、結生のお母さん。昨日の夜まではいなかったのに……いつのまに、帰ってきたのだろう。  ……いや、そんなことはどうでもいいのだけれど。結生のお母さん、俺たちがこうしてソファで抱き合って寝ているところをばっちり目撃してしまったということだ。いくら仲の良い友達だとしても、こんな風に密着して抱き合って寝たりはしない。腕枕とか、絶対にしない。  ……違和感、覚えているのではないだろうか。 「んー……?」 「あっ……結生、」  俺が結生のお母さんに変に思われないだろうかとヒヤヒヤしていると、毛布をかぶった結生がもぞもぞと身じろいで覚醒する。眠たそうな目をして体を起こし、ぼーっと結生のお母さんのことをみて、……結生は何事もなかったように、「おはよー」と言った。 「相変わらずね、結生」 「うん。俺、涙のこと大好き」 「へっ」  寝ぼけているのか!?  結生はふふ、と間抜けに笑いながら、俺を後ろから抱きしめてきた。そしてあろうことか、俺の頬にキスまでしてくる。「だめだ」なんて追い払うことなんかできず、俺はどうしたらいいのかと固まっていることしかできなかったけれど、結生のお母さんはにこにこと穏和な笑顔を浮かべたまま。 「二人とも、顔洗ってきて。もうすぐご飯できるからね」 「はあい」  ……にぶい、のか。それとも気にしないのか。  あまりにもゆるっとした結生のお母さんの反応に疑問を抱きながら、俺は結生に引きずられるようにして洗面所に向かった。

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