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あわてんぼうなサンタコス
★Twitterのタグで三十さんにリクエストいただきました。遥のサンタコス。えっちっちーまで辿り着けてなくてすみません! 反応ありがとうございました★
「♪りょうじのはー、ビッグマグナムっ。はるかちゃんのは、ミニウィンナー。サンタクロースのサイズなんですかー♪」
自分の身長よりも高い円錐型のクリスマスツリーに、遥はありったけのオーナメントを飾りつけていた。
きらきら光るモール、赤いリボン、銀色に塗った松ぼっくり、クッキーで作ったジンジャーボーイ、りんご飴、チロルチョコ、うまい棒、稜而の靴下、折り紙の天の川、輪飾り。
さらに短冊を用意して、『サンタクロース交通安全』、『トナカイ飲酒運転厳禁、ウィスキーボンボンに注意』、『ベル鳴らせ』、『荷台からの落下物注意』、『整備不良(尾灯等)注意、出発前に鼻が光るか確認すること』などと書きつけた。
「遥ちゃん、今年は運転免許を取得しましたのん。短冊の内容もより詳しく書けるようになったんだわー!」
満足してクリスマスツリーに短冊を結びつけていたとき、インターホンのチャイム音が響いた。
「はーい! はいはい! はーい! はいはい! 愉快痛快遥ちゃんが参りますのーん!」
怪獣の足型スリッパをぽよぽよさせて階段を降り、玄関ドアを開けて、受領印と引き換えに小包を受け取った。
「遥ちゃん宛に、切手のない贈り物なんだわー」
配送伝票の差出人欄を見て、遥はぴょんぴょん飛び跳ねる。
「あーん、三十 さんからなのよー! ごきげんいかがかしらーん。秋のお庭の会でお目にかかって以来、ちょっぴりこぶたさんなんだわー」
遥は二階へ戻ると早速小包を開き、添えられたカードのメリークリスマスという筆文字にキスをしてマントルピースの上に飾ると、ひゃっほーい! と歓声を上げながらプレゼントの包装紙を豪快に破く。
そこには白いファーで縁取られ、クリスマスツリーの絵が描かれた、真っ赤なタイトワンピースと、先端にポンポンがついた三角帽子が入っていた。
しかも薄いシルクサテンのフルバックショーツも添えられている。
「あらーん! なんてえっちっちーなのーん♡ クリスマスツリーが可愛くて、オープンショルダーで、よく伸びるけどスカート丈はパンツ下数センチって感じなのん! エロエロなんだわ」
遥はワンピースを胸にあてて鏡を覗き込んだ。
「可愛いおよふくだから、クリスマスまで待てないのん。♪あわてんぼうの、はるかクロース、クリスマスまえーに、おっこちた♪」
身体を左右に揺らして歌って、左右反転して映る時計に気づく。
「もうすぐ稜而が帰ってくるのん! そのときには、あわてんぼうの遥クロースちゃんが、暖炉からお迎えするんだわ!」
遥はシャワーを浴びて髪を乾かし、フルバックショーツとワンピースを引っ張りながら身につけた。
「ただいま帰りました」
稜而の声が玄関からうっすら聞こえ、遥は急いでマントルピースの前へ行く。煙突はとうの昔に塞がれているが、遥は両手をメガホンにして大きな声で
「どっしーんっ!」
と叫ぶ。それから赤い三角帽子を慌ててかぶり、床にうつ伏せになって、両足をばたつかせながら両手を目の下にあてた。
「あーん、痛いのーん! いたたたたたたなのーん! えーん、えーん!」
リビングルームのドアを開けた稜而は、下手な泣き真似をしている遥のもとへ軽やかに駆け寄ると、その肩を抱いて顔をのぞき込んだ。
「どうしたの、遥?」
「遥・ニコラウス・アワテンボウ・ラファエルちゃんなのん。クリスマス前に落っこちちゃったんだわー!」
使っていない暖炉を指差し、もう一度泣き真似をして、赤いタイトワンピースの上からお尻をさすった。
「尻もちをついちゃったのん。痛いんだわ! えーん、えーん!」
「それはいけない。診察しよう」
いそいそとワンピースの裾に手を掛けて、稜而はウッと声を上げた。
「フルバック……」
ばんっ! という音がして、稜而は床に両手をつき、うなだれていた。
「あーん、お尻の見えないフルバックはお嫌いだったかしらん?」
「シワ……」
「しわ?」
「シワっ! フルバックの布が左右に張られて横にできる、この数本のシワっ! それはこの布の向こうに谷間があることを暗示し、見るものにロマンの奥行きがあることを夢見させる! 二つの尻たぶが盛り上がって左右に布を引っ張っているからこその谷間の存在! 尊いっ! 尊いっっっ!!!」
「……お、おーいえー」
遥が相槌を打つ間に、稜而はさらに深く頭を垂れた。
「……ツ」
「つ?」
「はみケツっっっ!!!!! ああ、俺は今まで、尻は剥き出しが最高だと思ってたけど、未熟だった! 隠されるはずの尻が、ほんの少しだけはみ出ている! はみケツ! この無防備さ! 太ももと尻の境界線の曖昧さに本人が騙されて、足しか露わにしていないと勘違い、うっかり油断しているが、そこは尻! 尻なんだ!!!!! 八百万の神様、仏様、サンタクロース様っ、尻を! 尻をありがとう!!!!!」
稜而は遥の尻に向かって平伏し、床にゴンゴンと額を打ちつけた。
「ま、待って。待って、キャベツ。そんなに頭を打ちつけたら、今までお勉強してきたことが! 人間愛に根差して行動せんとする医師の志の高さを思い出して! 稜而の永遠のバイブルはブラック・ジャック! 間黒男なのん!」
稜而はハッとして顔を上げ、遥をお姫様抱っこして立ち上がった。
「そうだ。診察しなくては!」
稜而は大急ぎで、遥を寝室に運んだ。
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