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【習作】言わなくてもわかると思ってた(遥ver.)

 商店街の和菓子店に足を踏み入れた遥は、『本日金曜日 豆大福』という貼り紙と、ショーケースに並ぶ大きな豆大福を見比べ、ぴょこぴょこしながら列に並んだ。 「ごきげんようございますのん! 豆大福を二つくださいなー!」  受け取った包みを持ち帰り、仏壇に供えて手を合わせる。 「あ、もう何か供えてる? せんべいまで供えたら多すぎるかな」  せんべいの袋を手にした稜而が通りかかり、遥は正座したまま横ににじってずれて、座布団を半分明け渡した。 「どうぞなのん。あの世でものを食べるのは趣味なのん。空腹にも満腹にもならないから、大丈夫って思うわ」 大福の包みを寄せ、せんべいの袋を押し込んで、二人は線香を灯し、鈴を鳴らした。 「はいはーい。おやつのお届けでーす。食べてくださいませませー!」  ほんのいっとき静かに手を合わせ、遥はさっさと供え物を下ろした。 「早くないか」 「一瞬で転送されるから、大丈夫なのん。早くお下がりにしないと、この大福、味が落ちちゃうんだわ」  二人はバルコニーに出て、稜而が淹れたコーヒーを飲みつつ、大福をかじる。よく伸びる餅を見て遥ははしゃぎ、稜而は遥の口の周りについた大福の粉をそっとはたいてやった。  遥は子犬のように顔を振って喜ぶ。そしてまた、大福に噛みついて餅をみょーんと伸ばした。 「遥ちゃん、大福って、この豆がなければもっといいんじゃないかって思うのよ。もそもそするし、しょっぱいし」 「それが食感に変化を与え、甘さを引き立ててくれて、おいしいんだろう」 「ふーむ。知らなかったのん。言われてみればそんな気もするのよ」 「言わなくても、わかってると思ってた」 「遥ちゃん、日本人なのは半分だけだから、暗黙の了解って難しいのん。茶道でも『もう一服いかがですか?』って言われて、三回もおかわりしちゃったことあるんだわ」 「遥はどこへ行っても、暗黙の了解は難しそうだけど、素直だからいいんじゃない?」 「はっきり『もう結構ですって言いなさい。それが茶道のマナーです』って言われないと、わからないのん。三回おかわりしたときはおいしくて大満足だったわ」  大福を食べ終え、両手で自分の口をぱたぱたと払っていたら、髪に稜而の手が触れた。 「遥は、そのままでいいと思うよ。みんなが遥のことを可愛がってくれる。俺はライバルが多いけど、絶対に負けないから」 「あらーん! 稜而が遥ちゃんのトップオブトップだなんて、世界共通認識なのーん! そんなの言わなくたって、誰だってわかってるんだわ」 「そうだといいね」  稜而は素早く周囲を見回し、遥の頬にキスをした。 「グルルルルルル」  隣家との間を仕切る塀の下から、犬のジョンが唸っていた。 「遥ちゃんも、稜而のトップオブトップなのん! ジョンちゃんは種族を越えられないから、来世にかけるといいんだわ! がるるるるるる!」  塀の下を猛然と掘り進み、庭へ飛び込んできたジョンと遥の追いかけっこが始まった。稜而はせんべいをかじり、胸の落ちたかけらを払い落として、寄ってきた雀たちと遥たちを見ながら、ゆっくりコーヒーを味わった。

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