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おまけ その2

気づけば、太陽が西の空に大きく傾いていた。燃えるような茜色は悠々と伸び広がり、どこか寂しく切ない空気が大都市をすっぽりと覆っている。 カーテンと窓を開け、汗やザーメンの臭いがこもった寝室を換気し、初夏の爽やかな風を素肌に感じながら、望はベッドに寝転がって自らの左手をぼんやりと見つめていた。薬指にはまった指輪は斜陽の光を反射し、キラキラと煌めいている。純粋に綺麗だと思った。 流石に職場にはつけていけないので、プライベート限定だ。指に馴染むまで時間はかかるだろうが、月日を重ねていくうちに、自分にしか似合わない、自分だけの物になっていけばいいと思った。 「――……なぁ、ヒロ」 それはそうと気になることがあったので、となりでうつらうつらしている男にずりずりと身を寄せ、彼の厚い胸板の上で頬杖をつく。広海はまぶたを閉じたまま、眠たげな声で「なぁに?」と返事した。 「この指輪買いに行った時、店の人に何て言ったんだ?」 「……なんて言ったんだっていうのは?」 「いや、だって、指輪のサイズが大き過ぎだし」 望は自分の節くれだった男臭い指を、広海の目の前にかざす。「お前ひょっとして、正直に言ったんじゃ」 「あぁ、そういうこと」 広海はうにゃうにゃと言った。「だいじょうぶ、『僕の彼女、ぽっちゃりなんです』って言ったら納得してくれたよ」 「は?」 「ごめん、のんちゃん。眠たいから黙ってくれない?」 締まりのない声でそう言った直後、広海は早くもすやすやと寝息をたて始めた。とても気持ち良さそうな寝顔だった。……ぽっちゃり。なるほど、良い方便……なのだろうか……。望は緩慢に伸縮する広海の胸板に頭を預ける。……ぽっちゃり、ぽっちゃりなぁと、何とも言えない複雑な気持ちではあったが、まぁいい。本当にぽっちゃりになって、指輪が入らない、抜けないといった事態にならないよう、もっと摂生しようと固く誓った。

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