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蒼くて淡い 1

「今、何考えてる?」 「……別に」 卒業式が終わって生徒達が下校してしまった夕暮れ時の校舎。 その校舎内の廊下を、俺と瀬戸内は2人並んで下駄箱に向かうため歩いていた。 放課後まで待ってると、教師の俺と一緒に帰ると聞かなかった瀬戸内は俺の元教え子だ。 卒業式を迎えた今日、“生徒”という肩書きが取れたこいつと紆余曲折を経て恋人同士になった。 その瀬戸内が静かに問いかけたのはちょうど渡り廊下を渡った辺り。 「当ててやろうか」 「は?」 「ケイちゃんが今何考えてるか当ててあげる」 「別に何も考えてないけど」 「じゃあさ、なんでそんな不安そうな顔してるんだよ」 不安? 俺はいつそんな顔したと言うのか。 不安そうって…… 「どこがだよ」 「ケイちゃんは真面目だよな。まだ迷ってる顔してるんだよ。それって多分これの所為」 そう言って自分の顔を指さしながら、瀬戸内は少し切なそうに続きを口にした。 「兄貴の顔とそっくりな俺の顔を見る度に思い出すんだろ?兄貴を……。それに、あの時と同じ顔してる」 「あの時?」 そして、俺を助け一夜を共にしたあの日のことだと告げ、 「あの夜みたいに泣きそうな顔してるんだよ」 そう静かに言われた。 「俺は────」 ……そんなつもりはないと、本当にそう思ったから口にしようとしたはずなのに、言葉よりも先にその口を塞がれてしまった。 重なる唇から身体中へと染み渡る熱。 それは熱く、奥底にある何かを呼び覚ますような…… そんなキスだった。 「……ケイ……ちゃん」 そして瀬戸内がぽつりと俺の名前を呼ぶと、 「……うちに帰ろう?俺が、兄貴を忘れさせてやるから……だから……」 静かにそう言われ、俺は頷く代わりに軽く笑ってその手を取った。 ────── ──── 暗黙の了解で俺の家へと招き入れ、玄関のドアを閉めた途端に再び激しいキスをされた。 「んッ……せと……う、ち……ッ」 薄暗い室内に背中には冷たいドア。 それは全てから遮断されたような非日常的な空間。 そしてドア一枚を隔てた外には当たり前のように日常が存在している。 そんな狭間で俺たちはキスを繰り返す。 何度も…… 何度も…… お互いの見えない距離を埋めるかのようにそれは続き、 「……け、い……ッ」 うわ言のように俺の名を呼びながら舌を絡められ、俺もそれに応えるように夢中で舌を追いかけた。 キスってこんなに気持ちよかったっけ…… 酸欠気味の頭の中でぼんやり考えていると瀬戸内の唇が離れ、 「やば……今日寝かせてあげられないかも」 そんな、余裕のない言葉と共に抱きしめられる。 「ベッド……行こう?」 そしてそのままそう耳元で誘われると、俺の身体は更に熱くなっていった。

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