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蒼くて淡い 6

寄り道と言って向かった先は小さな公園で、そこは夕方と言うこともあって人気(ひとけ)はまばらだった。 歩道から少し奥に入り、古びた木製のベンチに並んで座る。 すると、さり気なく俺の手をすくい上げるように包み、瀬戸内が指を絡めてきた。 「お、おい……」 「どうせ誰もいないし、いいじゃん」 「おまえな……」 呆れるほどこいつはいつも通りで、それが逆に少し怖い。 こんなにも臆病な性格じゃなかったはずなのに、今は瀬戸内に何を言われるのか……その先に何が待ち受けているのか……不安で仕方ない。 「あのさ、留学のことなんだけど……」 「ああ……」 「4月入学で行くことにした」 そんな不安は的中して、現実を突き付けられた俺の頭の中は一瞬にして真っ白になった。 「せっかく恋人同士になれたから離れたくないんだけど、俺にも考えてることがあって……」 「考えてること?」 「うん、それは帰ってきてから話す」 繋がれた指先に微かに力が入って 、瀬戸内が再び口を開く。 「でさ、念の為聞くけど……待っててくれるよな?」 「どういう意味だよ」 「いや、ケイちゃんが俺の事好きなのは実感してるつもり。でも、俺はケイちゃんから見たらまだまだ子供だし……」 「ばーか。俺がひとりの間に心変わりするとでも思ってるのか?」 「思ってないけど、でもちょっとは不安になるんだよ」 大人ぶってるくせにたまにこういう年相応な可愛いとこをちらつかせる。 そんなところがまた俺を夢中にさせてること……こいつは気づいてないんだろうな。 「じゃあ、1回別れるか?」 「え……やだよ!」 「まぁ、俺も嫌だ。だから、おまえは何も心配しなくていいから安心して勉強してこい。ちゃんと待ってるから」 俺は大人だから、不安や寂しさの紛らわし方は多分こいつより上手いと思う。 だから、俺は何も言わずに送り出す。 でも…… 「瀬戸内……」 「なに?」 身体を傾け、少しだけすぐ隣の体温に甘えてみる。 「早く帰ってこいよ……」 薄暗くなった公園にはもう俺たちしかいない。 だから、今度は俺が繋がれた指先に力を入れると、ゆっくりと息を吐きながら……そう本音を口にした。 本当なら傍にいたい。 けど、そんなわけにはいかない。 「奏多……好きだよ」 俯き、か細い声で想いを素直に口にすると、覗き込むようにしてキスをされた。 それはとても優しくて、愛おしさが溢れるようなキスで…… キスを繰り返し、唇から伝わる体温に温かさを感じる度、俺の胸は切なく苦しくなっていく。 「圭一郎……俺も、好き」 お互いの気持ちなんて分かってるはずなのに、俺たちは何度も刻み込むように想いを口にした。 「見送りには行かないぞ」 「……なんとなくそう言われると思ってた」 そう力なく笑う瀬戸内の横顔は、とても美しくて、それは薄暗くても際立っていた。 「勉強の邪魔はしたくないから会いにも行かないからな」 「分かってる」 「でも、たまには電話してこい」 「うん。手紙も書く」 「返事は書かないぞ」 「国語の先生なんだから手紙くらい書けよ」 「やだよ、それとこれとは別だ」 精一杯の強がりを口にして、出来るだけ重くならない空気を作って、俺は笑顔で瀬戸内を送り出した。 それが今の俺にできる全てだから…… ────そして、それからあっという間に留学する日が訪れ、俺たち離れ離れになった。

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