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第50話

いや、むしろ泣く。小学生の頃なんかそれで号泣したこともあるし。 (俺のあまりの泣きっぷりに、先に泣いてた友人が驚き過ぎて涙も引っ込んだという、恥ずかしい思い出ですよ) だからこれは優しさとか思いやりだとか、ましてや慰めてるなんて綺麗なものじゃなくて。 押し付けがましい独り善がりの、自己防衛というか自己満足な偽善行為ってやつなんだ。 と、照れ隠しのような言い訳をぐるぐる考えていた、その時。 「わんわんダメ、くっつくの……俺だけ!」 「ひゃっ!? し、書記さま?」 いきなり隊長さんから引っぺがされ、代わりに書記さまの胸にダイブ。 ぐはあっ、只今死にそうなくらいぎゅうぎゅうに抱き締められてます。 ちょっ痛い、た、助け――。 「止めてください! 可哀相に、痛がってるじゃないですか。わんわん君、大丈夫?」 「!」 ベリッと今度は書記さまから引っぺがされる。 おお、さすがは困った時の隊長さん。 やっぱりあなたは俺の最後の救世主です。 ありがとおぉッ ん? でも何かいつもと少し違うような。 隊長さんと書記さまが何故か激しく睨み合っていますけど。 ……二人は主従関係なんだよね? 「はいはい、危ないからこっち来ようねー。ていうか、わんわん今ワンコ書記の親衛隊長に抱きついてなかった? まさか浮気ぃ?」 横から腕をつかまれ、よろけた先にはチャラ会計さま。 ニコニコといつもの笑顔なのに若干頬が引きつって見えるのは目の錯覚だろうか。 え、あの何か怒ってます? あと浮気って、何が。 「おい、そんで何でテメエが勝手に抱きついてやがる。ふざけんな、代わりに俺様がそいつを保護してやるからとっとと離れろ!」 「はあ? 会長こそ何言ってんの。わんわんだって俺の方が良いに決まってるよねぇ。保護とか言いながら会長、わんわんに絶対変なことする気だよ~。えっちぃ」 「な!? す、するわけねーだろ馬鹿かテメエ。つかお前こそいつの間に『わんわん』呼びしてやがんだよ、最初は『君』付けだったろーが」 「うわ何キモ、会長一々そんな細かいこと気にしてるの? あ、それとも俺のストーカー? ごっめんねぇ、さすがの俺でも会長は抱けないや」 「き、気色悪いことほざくんじゃねーよ、鳥肌立っちまったじゃねえか!」 .

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