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第51話

「僕も同意見です。そんな、他人に吐き気を催させるような人達に、わんわん君は預けられません」 二人の間をあっちへ引っ張られこっちに引っ張られ、していた俺を今度は脇から庶務さまが捕獲。 その瞬間、人口密度が高過ぎて狭苦しい室内に 「あ」 という三人(会長・会計・隊長)の声が揃った。 何故だろう。とっても嫌な予感がします。 「待っ、書記さま!」 ――ドンッ 「おわっ!?」 「痛ぁッ」 ――ギュウウゥウー 「ぐふぅッ!?」 「わんわん、俺の。みんな抱っこするの、ダメ」 「お仕事お疲れ様でした先輩。あ、ほらほら遠慮しないで、わんわん君も。大好きな先輩に思いっきり甘えて良いんだからね? いやーそれにしても先輩の嬉しそうな顔を見ると僕まで幸せな気分になれますね。はぁ良いことをしたなー」 隊長さんの制止を振り切り、会長さまと会計さまを突き飛ばし、こちらへ突進して来た書記さま。 そして再度締め上げられる俺。 抱きつくなんて可愛いもんじゃなく、マジで締め殺されそうな勢いでだ。 すぐ横で微笑ましげに眺める庶務さまめ、俺を売り(?)やがってこの書記さまバカが。 ちょっ、満足そうに頷く暇があったら助けて。本当に痛いし苦しいから! ああヤバイ、本格的に息が――。 「う、ぐぁ、は……助、け……っ……」 「もう我慢ヤだ。仕事頑張ったから俺、わんわん抱っこ出来る。怒られない。わんわん可愛い、良い匂いする、あったかい。一緒にいるの幸せ、嬉しい。わんわん俺と、ずっと一緒! なでなで、わんわんの髪気持ち良い。頬っぺたスベスベ、ぷにぷに柔らか、美味しそう。 はむっ…………う? わんわん今日、静かで変。どーしたの、いつも元気に暴れるのに」 「ハッ!? 書記さま、わんわん君を放してあげてください!」 「痛いなぁもー…って、わんわん?」 「チッ、この馬鹿犬が……あ?」 「えーっと先輩もしかしてそれ、わんわん君、気絶してませんか?」 ……………………。 「わ、わんわんわんわん、わんわーん!?」 こうして、次に俺の意識が戻るのは数十秒後。 涙と鼻水まみれで「わんわん」を連呼する書記さまを、会長会計庶務さまが三人掛かりで必死に取り押さえている真っ只中のことであった。 .

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