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第73話
中から取り出した野菜を手に持ち、完成した品を想像する。
うむ、これだけあれば大丈夫。久々に俺の好物を作れるかも。うへへ。あ、よだれが。
鼻唄まじりにウキウキしながら必要な食材を調理台の上に並べていく。
さてと。
「わんわん君?」
「えっ、もしかしてわんわん料理出来るの!?」
気合いを入れ腕捲りをしたところで声がかかった。そういや皆さんまだいたんですね。
「いいえー。俺、料理はほとんど出来ないっスよ」
食堂へ行けば普通に美味しいものを食べられるし、行くのが面倒な時もレトルトやインスタント食品がある。
学園内のコンビニでお弁当を買えば自分で温める手間さえ要らない。実に便利な世の中だ、ありがとうございます。
だがしかし。
本格的な料理は無理だけど全く作れない訳ではない。
ひとえに、料理を作るのが嫌いな「腹に入ればどうせ同じ」と言い切るうちの母ちゃんのおかげであろう。
子供の頃、自分ちのご飯が不味すぎて泣きついたら『子供でも出来る料理本』を渡され、美味しいものが食べたいなら自分で作るしかないと気が付いた。
お金があったら買い食いも出来たのだろうけど、残念ながら俺の少ない小遣いでは無理だったし。
そんな理由で母ちゃんのお手伝いと称し、小学生だった俺は少しずつ家事に手を出すようになった。
でも遊び盛りというか結局は面倒臭がりな母ちゃんの子供なわけで、毎日真面目に料理を頑張るといったこともなく。気が向いた時やどうしても食べたくなったら本や箱書きレシピを見て、市販のルーを使ったカレーやシチュー作りなどに挑戦する。その繰り返し。
まあ、こんなの誰だって作れるし『料理』と言えるかは微妙だよね。
学園の寮に入った後は学食中心になったけれど。たまに気が向いたら適当に作る程度で。
最初は同室者に隠れてこそこそやってたんだけどすぐバレました。そりゃそうだよね、一緒の部屋に住んでて見つからない筈がない。
そんで、馬鹿にされるかと思えば逆に喜ばれて出来立てのご飯を横取りされたっけ。
……多分、アイツと友達になった『平凡仲間』以外の理由ってそれかなぁ。ムカついたけど何となく嬉しかったし。
でもって当然、食べたからには食材費を頂戴してやりましたがそれが何か?
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