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第72話
だけど、その。ただでさえ見た目だけは儚げ美人な書記さまにそんな表情をされると、うっかり流されそうになる。
ドキッとするというかキュンと切なくなるというか。
あれ?
もしかして俺、書記さまのああいった顔にめちゃくちゃ弱くないか。
い、いやだって何か書記さま、犬っぽいし。実は俺、犬好きだし。あんな風に悲しそうに鳴かれたらもう我慢出来ないでしょ。
『よーしよしよし、もう大丈夫だよごめんね怒ってないよー。かまってあげなくて俺が悪かったねー、頭なでなでしたりお腹モフモフしたり、寂しくないように今日は一杯遊んであげるから安心しようね。悲しくならないように、俺がずっと一緒にいてあげる!』
みたいな感じで必死にご機嫌とっちゃいそうになる。
と、明後日な思考に陥っていたら。
「ベタなセリフ過ぎて口にするのが恥ずかしいのでしたら、場を和ます為とはいえそのようなご冗談、今後は無理に仰る必要はありませんよ書記さま」
そう言って再び笑みを浮かべた隊長さんが、転がる書記さまを見下ろしてました。
あの、気のせいか室温下がってませんか。
書記さまは「ふむー!?」と呻きながらぶんぶん首振ってるし。
えーと?
ああ、何だ。さっきの泣きそうな顔は恥ずかしかったからなのか。つまり俺の早とちりじゃん。
うっわ、良かった。危なく間抜けな真似(書記さまの頭を撫でたり)をしでかすとこだったや。その前に教えてくれてありがとう隊長さん。
そっかー、やっぱ超絶美形でも恥ずかしいセリフを口にするのは勇気がいるんだねぇ。
書記さまってあんま羞恥心とか無いんじゃ、なんて思っていたけど違うらしい。一応覚えとこう。
ただ、この時。
書記さまが涙目で隊長さんを睨んでいたり。
その隊長さんが、一人納得する俺の様子を満足そうに眺めていたり。
会長さまと会計さまが複雑な表情で、そんな俺たちを見ていたり。
――には全く気付かなかったけどね。
「うおっ、食材!」
床に転がりぐちぐちメソメソする書記さまを放置し、冷蔵庫内を漁ってみる。
おおお、凄い。新鮮かつ美味しそうな具材が沢山。
念のために確認すると隊長さんから自由に使って良いですよ、と微笑まれました。やった!
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