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第78話
代わりに離れた場所からギャインッと大型犬の悲鳴がしたような……いや、うん、聞かなかったことにしよう。
とりあえず今は、ベッドの脇に立つ隊長さんが白馬の騎士に見える。
うわあぁ、ありがとう隊長さん。
本当に色々と危なかった。人として男として、要するに多感な一男子高校生として、もう少しで取り返しのつかないことになってた気がするからっ。
***
「気付くのが遅れてしまい、大変申し訳ありませんでした」
「そ、そんなことないです。来てくれてありがとう隊長さん、本っ当に助かりました」
深々と頭を下げる隊長さん。
着替えもせずベッドの上に座ったままの俺。
数分ほど前、隊長さんはいつものように書記さまを起こそうと書記さまの部屋へ行ったらしい。
ところが室内はもぬけの殻。さらに冷えきったベッドを見て、俺と一緒にいると判断。
直ぐ様こちらに駆けつけてくれたそうです。
その際やむなく玄関扉のチェーンを切断したので、今新しい物と交換してくれているとのこと。さ、さいですか……。
「むがむが、んむーっ!」
「えー? なぁに? あはは、ワンコ書記ってば何言ってるのか全然分かんないなぁ」
「静かにしてくださいケダモノ書記。同意も得ず無断で部屋に侵入し、よりによって大事な筈の飼い犬の寝込みを襲うだなんて。あなたみたいな人の言い分は聞きたくありません」
「まさか本気でノラ犬に発情するとはな」
「せ、先輩……」
昨夜同様、口を塞がれ縄で縛られた書記さまが床に転がっている。
蔑んだ目でそれを見下ろすのは何故か俺の部屋にいる生徒会の皆さま方。早朝だからなのか全員ラフな私服姿ですね。
いや、というか本当にこんな朝っぱらからどうしてアンタらまでいるんですか!?
そんで、いつ誰が書記さまの飼い犬になったんだ。しかも発情されたノラ犬って……。
せめて飼われてるのか野良なのか、どっちかに決めて欲しい。
――じゃなくて。
ダメだ、俺も訳分かんなくなってきた。
「わんわんが引っ越してから最初の朝食を一緒に食べようと思って、せっかく早起きしたのに。ワンコ書記さいてー、もぉ台無しー」
「奇遇ですね、私もわんわん君を朝食に誘うつもりでいました。そうしたら書記の部屋から親衛隊長が飛び出して来て、何事かと思えば」
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