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第1話
◆ ◆ ◆ ◆
――みーん、みんみん……みーん……
橙色が支配する夕暮れ時の夏の空に――喧しいくらいに鳴き続ける蝉の声。
尹儒を産んでから――九度目の夏がやってきた。
(暑い――夕暮れ時の外を歩いているだけというのに……汗が酷い――それなのに、これから録に換気すらされていない祝寿殿へと行かなければいけないのだから……気が滅入る……)
「母上、母上……如何なされましたか?随分と気分が優れないようですが……」
「……平気ですよ、尹儒――それよりも今宵は貴方のお父上である……か――、いいえ王様が訪ねに来て下さるようですから、おもいっきり甘えるとようですよ?」
「ほ、本当でございますか?お父上が……僕に会いに来て下さるなんて……誠に幸せでございます!!」
愛しい我が子――尹儒の笑みを見るだけで、これから祝寿殿に向かう憂鬱な気分など完璧に消え去るのだった。
◆ ◆ ◆ ◆
「……それで、このような隔離されてある祝寿殿に――何故、私と尹儒を招いたのでございますか……木偶の童子様?よもや、とっくの昔に儀式を終えた貴方様は――私と、ましてや息子の尹儒とは関係ない御方のはず……それなのに何ゆえに、わざわざ此方に私達を招待なさったのです?」
「……っ……ぱ……り……おぼ……ていないの……すね……」
ぼそ、ぼそと小声で呟く木偶の童子と呼ばれていた術師の言葉は私の耳には届かなかった。しかし、どことなく彼が切なそうな表情を浮かべたのは私の気のせいだったのか――。
そんな事を心の中で思い悩んでいた私だったが、不意に――にっこりと穏やかな笑みを私と尹儒に向けて浮かべてきた木偶の童子という術師はおもむろにすっく、と立ち上がると――そのまま私の問いかけには答えず何処かへと去って行ってしまった。
ぽかん、としている私と尹儒の前に――少ししてから再び木偶の童子という術師が現れた。その手には――何か大きな物を抱えているのが見える。
それは、とても立派な――西瓜だった。
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