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第1話

 飲食店や衣服店が立ち並ぶ賑やかな西口とは正反対に東口では大学や郊外への病院へ行くバスが出ている。  例に違わず、陣内要(じんないかなめ)が東口に来たのはそのバスに乗るためだった。  ただ、休日の。しかも、7時前と早い時間だったため、タクシーへ乗る羽目になった。 「ああ……」  陣内は明慈大学行きのバス停からタクシー乗り場まで足を進めながら、誰にも聞かれないように呟く。  明慈(めいじ)大学。生和(せいわ)、平静(へいぜい)など多数の大学が運営され、大学都市とも言われるこの近辺で最も、偏差値、授業料、人気が高い私立大学である。  そして、今日の陣内の行き先であった。 「休日勉強会のスタッフ?」 「そう、僕も参加するんだけど……」  1週間前、同じ高校出の友人の柚木和真(ゆうきかずま)がそんな事を言い出したのが始まりだった。  明慈は教員にも力を入れていて、地方ながら、一流大学出の教授や世界にも名前の知られた研究者もいる。そんな凄い先生が集まっての勉強会が3月、6月、9月、12月のワンシーズンで開催され、その講演やワークショップを運営するために、大量のスタッフを要する。  と、柚木の話は大体、このようなものであった。  本来、大学へ休日勉強会の1日バイトをしに来た陣内にタクシーに乗る余裕はない。しかし、バイトとは言え、仕事に遅刻する訳にはいかないだろう。  昨日、バイクを壊してしまった事と言い、何だか、やりきれない朝の始まりだった。  駅の改札を抜けて、歩いて2分とそんなに遠くないタクシー乗り場に着く。すると、既に3人の人間がいた。1人は若い女性とその母親だろうか。顔の感じが似ていて、娘の方は少し目立たない感じだが、なかなか可愛い顔をしていた。  もう1人は陣内より少し年上だろうか。若い男だ。黒いスーツとネクタイに淡いブルーのシャツを着ている。ちなみに、今日の陣内も大学側に黒か紺、グレーのスーツを指定されていたため、同じような装いをしているが、カラーのシャツは厳禁とされていたので、多分、違うのだろうと思っていた。

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