9 / 26

第9話~あの人を見ないで下さいお願いです編~

剣道部に所属している蒼真は、幼少の頃からしていたこともあって、実力はかなりの物だった。 鳴り物入りした部内では、最初こそ先輩にやっかまれもしたが、有無をいわせぬ実力で今の確固たる地位を築いていた。 かといって威張っている訳ではなく、団体戦ではレギュラーは勿論、皆から尊敬の念で見られていた。 性格は真面目で、かといって堅苦しくなくどちらかというと爽やかな蒼真は、先輩たちからも可愛がられていた。 蒼真が爽やかなイケメンという事もあり、女子からの人気もそれなりにあるので、あわよくば紹介をして貰おうという魂胆も見え隠れするが…。 「って、おい!あそこ見てみろよ!!」 顧問が居ないとはいえ、私語はなるべく控えて練習に打ち込む剣道部だが、上級生の渡部が隣の田畑に興奮した様子で訴えた。 「ん?…おっ、美人!!」 そんな田畑の声に、周囲もそちらへと視線を向ける。 どんどんと視線が波のように吸い寄せられていく部内の様子に、蒼真も漸く気がついた。 一体何を見てるんだ。 練習しろよな、全く…。 なんて呆れた様子でそちらに視線を向けて、心底驚いた。 「!!!?」 ちょっと、待て。 何であの人がここに居るんだーっ?! 蒼真の視線の先には例の美人が居て、何処かワクワクした様な顔でこちらを見ていた。 蒼真が自分に気がついたと分かった真生が、ゆっくりほわほわとした表情で手を振った。 その途端に、ドワッと館内がざわめいた。 あ~もうっ!! 何してんだあの人はっ!? 「ちょ、皆は見ないで下さい!あの人は毒物なんでーッ‼」 面を取ると思わず部員に向かって、叫んでしまった。 「何いぃ?!あの人、お前の知り合いか?!」 「誰だよ、あの人は!!」 「紹介をしろーッ‼」 そんな部員を無視して、真生の元へと走った。 「ちょ、あんた!何でこんな所に?!」 蒼真の慌てっぷりはどこ吹く風。 「会いたくて~来てしまったんだよねっ!こんにちは~」 真生は、ニコッと笑い嬉しそうに言うとペコリと頭を下げた。 …。 何…この人。 蒼真は未知の生物を前に、固まったのだった。

ともだちにシェアしよう!