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第5話 カフェ『ビッグアップル』にて
覇王・東京営業所近くにある
カフェ「ビッグ・アップル」は新宿という場所柄
いつも多種多様な人々で賑わう、
警察関係者・近隣の会社員・出勤前のキャバ嬢や
ホスト、等など ――。
カウンター席が10脚とテーブル席が7卓ほどの
小じんまりとしたお店。
カウンターの中でトレードマークともいえる
パイプから紫煙をくゆらせているのは
この店のマスター・相良さん。
とにかく人脈が幅広く世話好きで、
多くのお客さんや会社のスタッフ達から
”親父さん”と呼ばれ親しまれている。
昼の一番忙しい時間をやっと終えたこの時間帯は、
親父さんもホッとひと息つけるひと時で、
フロアーの接客も高校生位の男の子が1人で
担当している。
『――いらっしゃいませ』
「―― もうさぁ、怪し気な親父が派手な車から
降りて来るんだもん、目立ち過ぎだよあんた」
そう言ったのは親友の若い恋人・
和泉大地(いずみ だいち)。
人に奢らせたパフェを平らげながら
生意気にもこの言い草だ。
確かに10代のこいつにとっては、三十路過ぎの男は
親父に見えるのかも知れない……。
”怪し気な”についてはこの際言及するのは
やめておこう。
「―― で、お前は何してんだよ? こんな所で」
「あ、オレ? オレはさぁ、久しぶりに外でメシでも
食おうって英明に誘われて」
「メシの前ならパフェなんかやめとけよ」
「へへへ、ケチ臭いぜぇ柊二、まだちょっと時間ある
から付き合ってやってんだろ~」
「あぁ、そうですか、そりゃどーもっ」
「―― けど、柊二こそだれかと待ち合わせ
だったりして? もしかしてぇ……」
大地は手の小指だけを立てて。
「コレか?」
「そんなイイもんじゃねぇーよ」
「あっそう ―― だろうな」
「何だよ、その”だろうな”ってのは」
「ん――ってゆうか、柊二ってこだわりそうだから……
デートなら、それこそ完璧なエスコートしそうじゃん
―― って、あっ! 英明だ」
「ようやく、ナイトのおでましか」
「じゃ、オレ行くわ。パフェごちそうさん」
「どーいたしまして。ヒデに宜しくな」
と、大地は店の出入り口に向かったが、
その時、戸口で洵と鉢合わせた。
「な~んだ、柊二の待ち合わせって、マコちゃんと
だったのかぁ」
と、大地は拍子抜けしたような表情でオレの方を
振り向き見たが。
それは大地の勘違い。
俺の待ち合わせ相手は洵ではない。
俺は手で”シッ シッ”と大地を追い払う
サインを送った。
「ほら、大地? 大切なダ~リン、
待たせちゃダメなんじゃない?」
と、洵にも急かされ大地は、
「あ、いけね。じゃ、
今度ゆっくり飲み会でもやろうねー」
と、小走りに出て行った。
(”飲み会でもやろうね”だと?未成年のくせに!
ったく、最近の10代はどうなってんだ??
ま、そーゆうオレも、酒は10で覚え、
童貞を捨てたのは12だったが……)
ここで、俺の待ち合わせ相手・美鈴が、
洵を追い越しオレのテーブルへやって来た。
この美鈴は水商売激戦区のひとつ新宿歌舞伎の
高級キャバクラ”クラウン”のキャバ嬢。
俺がまだペーペーの新人リーマンだった頃、
初めて路上スカウトにノッてくれた子だ。
「ごめん ごめん、待ったぁ?」
んなの、テーブルのカップの数と灰皿
見りゃあ分かんだろ。
テーブルの上には、もう何人もの人が
入れ替わり立ち替わった事を示すカップと
灰皿の中の溢れそうな吸い殻。
「今日はさぁ、柊ちゃんが同伴してくれるってから、
気合い入れてお洒落してきちゃったぁ」
「あ、そう……」
大地がいなくて良かった……。
こんなとこ、あいつに見られたら後で何言われるか
分かったもんじゃない。
洵は? といえば、呆れた表情で少し離れた
テーブルへ座ったが、あっちの待ち合わせ相手は
5分と待たせず現れた。
その男・笙野伸也は、年の頃なら40代の後半から
50代前半ってとこ。
サマーニットにチノパンというラフなスタイル
だが、男のオレが見ても惚れぼれするくらい
サマになっていて色香漂うイイ男。
仕事の面でも、株式会社・覇王の次期専務と
呼び声が一番高く。
事実、同期の中で彼は頭2~3個飛び抜けている
状態だが、それだけに同業他者からの引き抜きも
多いのだ……。
洵は元カレと別れたあと、
業界の合同忘年会で初めてこの男と知り合い、
お持ち帰りされ、そのまま付き合うようになった
らしいが、問題は彼が妻帯者であるという事。
しかも、奥さんは大病を患い入院中だ。
万が一この事が明るみに出れば、格下の洵が
何らかの処分を受ける事は免れないだろう。
ったく ”こうなっちゃったから、仕方がない”
とは言っても、何考えてんだか……。
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