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第7話 応接室にて
屋上でしばらく頭を冷やし、
部署へ戻った洵へ先輩女子から声がかけられた
「あ、小鳥遊くん。悪いけど、第2応接室にお茶をひとつ
運んでくれる? 私これから会議なの」
「はい、分かりました」
第2応接室は主に管理職クラスの賓客が仕事以外の
用件で来社した際、通される部屋だ。
お茶がひとつって事は、お客様は1人って事か。
至極当たり前の事をぼんやり考えながら給湯室で
お茶を淹れ、第2応接室へ運んで行く。
―― トン トン
『失礼致します』
『どうぞー』
何処かで聞き覚えのあるその声に”おやっ?”
と、小首を傾げながらドアを開けた。
室内の応接ソファーに座っているのは笙野だった。
「しん ―― いえ、笙野常務、お久しぶりです」
「うん、4日ぶり、かな」
洵はテーブルへお茶を置いて、さっさと
出て行こうとしたが、笙野に引き止められた
「ツレないなぁ、4日ぶりなんだよ。もう少し
ゆっくりして行けば?」
「勤務中ですので」
「じゃ、勤務明けならいいんだな」
「んな屁理屈捏ねて困らせないで下さい」
すぐ外の廊下で男性の声がする。
その声は毎朝のテレビ朝礼で聞いているので、
嫌でも覚えた。
社長・神宮寺のモノだ。
「参ったぁ、もう、来ちゃったか」
「って、社長へ会いにいらしたんですか?」
「うん、先日カミさんのお見舞いに結構な物
貰っちゃったからね、その御礼かたがた、
古巣に陣中見舞い?」
笙野は神宮寺がすぐ外にいるにもかかわらず、
洵の手をグイっと引き、自分の腕の中へ
すっぽり納めてしまった。
「ちょっ、笙野常務 ――っ! 止めて下さい」
「そのよそよそしく呼び方止めて、僕に気持ちの
いっぱいこもったキスをくれたらね」
「え ―― っ(絶句)」
「ほ~ら、どうするー? 神宮寺はすぐそこに
いるんだよー。こんなとこ見られたらすっごく
恥ずかしいねぇ」
恥ずかしい、どころの騒ぎじゃない。
バイト生からの逆セクハラ ――
厳重注意処分、くらいで済めばいいが……。
「……まこと」
そんな笙野の甘い 甘い囁きに引き寄せられるよう
洵は笙野へ唇を重ねた。
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