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バスと謎の一年生2
「僕と話してるとこ、他の生徒に見られると、君も嫌な目に合うよ」
「なにそれ?」
そいつは暗い顔をして俯いた。
まさか、こいつ……。
「ごめん。お前、いじめられてんの?」
「……」
ぶっちゃけ、俺はいじめって大嫌いだ。
いじめなんて言わずに、犯罪って呼んだっていいと思ってる。
俺はそいつの隣に座った。
「!?……ちょっと!」
「今、誰もいないじゃん」
よいしょと座って、お茶を渡した。
「お前、名前は?」
「……ひ、平野」
「平野。お前、いじめられてんのか?」
平野は黙り込んで俯いた。やっぱり……。
「親とか先生には相談したのか?」
「……そんなこと言えるわけない」
親なり、先生なりに話して、さっさと転校でもすりゃいいって思う。
───俺の脳年齢は29歳だ。
高校生活なんて、長い人生の中でたったの三年だ。
いじめられて過ごすなんて不毛すぎる。
逃げていい。我慢する必要なんてない。
だって、まだ子供なんだから。
これからいくらでもやり直しがきく年齢だ。人生にはいくらでも道がある。
でも、閉鎖された寮生活だと、この狭い世界がすべてに思えるんだろうな。
「平野。スマホ持ってる?」
「え……」
「連絡先教えるから、なんかあったら俺に言えよ」
「……だから、僕と関わったら迷惑が……」
「迷惑かどうかは俺が決めるし。これもなにかの縁だし。こっそりメールのやりとりならいいだろ?」
平野は揺れる瞳で俺を見ていたが、そっとスマホを出した。
やっぱり、誰かに聞いてほしかったんだろう。
俺は平野と連絡先を交換して、たわいのない世間話をした。
あれこれ聞かれるの、まだ嫌だろうし。
「俺、三年意識不明だったんだよ。だから遅れて入学したんだ」
「あ。1‐Bの眠り姫って君のこと?」
「うがぁ、眠り姫って……。やめてくれ。せめて三年寝太郎にしてくれ」
平野がクスっと笑ったのを見て、俺はほっとした。
良かった。ちゃんと笑えて。
そのまま雑談をして、バスを降りて別れた。
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