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バスと謎の一年生[side 平野]
[side 平野]
バスの中で突然話しかけられて、びくっとした。
顔を上げたら、話しかけてきたのはキレイな顔をした生徒だった。
見たことない顔。心配そうに僕を見てる。
───でも、ダメだ。僕とかかわっちゃ。
「ごめん。お前、いじめられてるの?」
えっ!? こんなにぶっちゃけて聞かれたの初めてで、僕は固まってしまった。
正確には、いじめられてるわけじゃないけど……彼と同室になってから、僕は孤立している。
僕と関わると、同じような目に合うかもしれないから……みんな遠巻きに見てるだけだ。
「スマホ持ってる?」
このキレイな子、有栖川くんは連絡先を交換しようと言う。
……なんで?
有栖川くんはアーモンドの形をした綺麗な黒い瞳でまっすぐに僕を見る。
「迷惑かどうかは俺が決める」
ハッキリと告げられて泣きそうになってしまう。
駄目だって思うけど……僕は有栖川くんと連絡先を交換しちゃった。
こんな風に誰かに優しく接してもらうのなんて久しぶりだったから。
有栖川くんはキレイな顔をしているのに、他の子たちと違って、すごくきさくで話しやすかった。
「眠り姫って君のこと?」
「せめて三年寝太郎にしてくれ」
すごく嫌そうな顔をした。
思わず笑ってしまう。
あ。もし、有栖川くんが彼よりも先に学園に来ていたら、僕と同室は有栖川くんだったかもしれない。
……有栖川くんなら良かったのに。
バスの中は僕たち二人だけだったので、久しぶりにリラックスできた。
有栖川くんは不思議だ。初めて会ったのに、空気のように自然に、僕の中に入り込んできた。
バス停に着いて、バスを降りた。
もう、着いちゃった。
もっと、一緒にいたいと思う。
学園に戻れば、また一人だ。
……一人ではないけれど。
僕の気持ちが分かったのか、有栖川くんがニコッと笑って僕の手を握った。
「平野。大丈夫だから。またな」
「……うん。またね」
バス停で、手を振って別れた。
僕は特に行くあてはないのだけれど、学園を離れたくて街に出てきていた。
「あ」
スマホにメッセージが届いた。
有栖川くんからだった。
『なんかあったら遠慮なく言えよ。大丈夫だから』
───大丈夫。
短いけど、力強い言葉。
泣きそうになった僕は、ぐっと堪えて有栖川くんに貰ったお茶を飲んだ。
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