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千尋と小林と洋食屋1

  今日は小林と約束をしていた。 昼飯食いに行こうってのと、必要なものを買い物しにお出かけだ。 待ち合わせ場所に、背の高い隠れイケメン。小林が待っていた。 「小林……さん」 あっぶな。呼び捨てにするとこだった。 俺は今17歳。一応、敬語を使わねば。 「久しぶり」 小林が笑って答えた。 ああ。落ち着くなぁ。 今は、十代の男子高生に囲まれてるから、本来の同年代と一緒だとやっぱ落ち着くわ。 「ちょっと早いけど、先にご飯食べる? 混むだろうしね」 「うん」 俺と小林は並んで歩いた。 昔はあんまり身長変わらなかったのになぁ。 今は10センチ以上、小林の方がでかい。 むかつくなぁ。 「何?」 「いや。背高くてむかつ……羨ましいな、と」 「今、むかつくって言いかけたでしょ」 「バレたか」 つい気を許してしまう。 でも、小林はその方が楽しそうだった。 小林は俺が『山田太郎』の心臓を移植されたことで、『山田太郎』の記憶や人格を受け継いでいるという話を信じている。 ───ちょっと複雑だけど。 小林に嘘をついているし。 でも小林がこんなにも山田の死を悲しんでいたのだと知って、胸が痛くなる。 それに不謹慎だけど、少し嬉しかった。 軽口を叩きながら、まるで昔の山田と小林に戻ったような気がしていた。 「何食べたい?」 「あの洋食屋は?」 小林がハッとした顔をした。 俺が言ったのは、大学生時代から一緒によく行ってる洋食屋のことだ。 ボリュームがあって美味しいんだよね。久しぶりに食べたくなった。 「……いいよ。行こうか」 小林は少し複雑そうな笑みを浮かべている。 その顔を見て、俺はどこまで素の自分を出していいのか、少し迷った。

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