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チャラ男と追いかけっこ3[side 難波]
[side 難波]
「うげっ」
可愛い顔したその子は、オレを見てそう言った。
うげって……面白い。オレを見てそんな声あげる子初めてだ。
しかも「無理無理!」と、脱兎の如く逃げ出した。
「あはは」
面白い。なんか燃えてきた。
オレはその子を追いかけて走った。
「馬鹿! くんなー!!」
一生懸命逃げてる。可愛い。楽しい追いかけっこだ。でも残念。
もうすぐ捕まえちゃうよ………ほら。
「うわ!」
その子が転びそうになったので、腕に抱いて受け身を取った。ナイスキャッチ。
華奢だけど、抱き心地がいい。
「ひえぇ」
また面白い声を出した。ネクタイの色は一年生だ。こんな子いたっけ?
「お名前は?」
オレは極上スマイルで聞いた。大抵の子は、この笑顔に真っ赤になるんだけどなぁ。
「離せよ!」
その子は暴れた。アラ、通用しないね。
「よっと」
ゴロンと反転して、その子を組み敷いた。脚を絡め、両手を恋人繋ぎみたいにして、体の下に縫い止める。
オレの特技だね。
「ひっ!?」
その子は真っ青になった。
じっくりと顔を眺めた。キレイな顔。震える唇が誘っているみたいだ。
オレはそっと唇を寄せた。その子は限界まで首を反らせて、オレの唇から逃げた。
そんなにイヤ?
オレはちょっとイジワルな気持ちになって、首筋にキスして、チュッと吸い上げた。
「やめろ! 気持ち悪い!!」
ビクっと体を跳ねさせて叫んだ。
オレはため息を吐いて顔を上げる。
硬直して怯えまくってる。
オレは確かに下半身はユルいけど、ゴーカンは好きじゃない。
お互い気持ちよくなきゃ意味が無い。
オレはそっと、その子の上から退いた。
「ごめんね。怖がらせちゃって」
手を貸して起き上がらせる。ちょっと震えてる。ホントに怖かったんだ。
オレはその子の制服のポケットから生徒手帳を抜いた。
「1-B 有栖川千尋ね。ああ。キミが噂の眠り姫ね」
「返せよッ!」
生徒手帳をポンと返す。これ以上かまうのは逆効果だ。
「また今度。ちゃんと口説かせてね」
ニッコリ笑って、オレはその場を去った。
最近、生徒会のお仕事もサボっていてヒマなんだよね。
『西大路にイヤガラセしたくない?』
オレにそう持ち掛けたのは桜真だ。
生徒会のお仕事を放棄すること。
そんなことしたらリコールされて、せっかくの特権が無くなっちゃう。
『大丈夫。あの生徒会長が身を粉にして必死になる姿が見られるよ』
桜真はそう言った。
あのニ人の間に何があったかは知らないし、興味は無いけど………
西大路はいけ好かない奴だったし、まぁいいか、と思った。
ここんとこ生徒会室にも行ってない。
桜真の言った通り、ホントに一人で頑張ってるみたいね。ざまぁ。
好きなだけサボっちゃえ。でも、ちょっとだけ退屈してたんだ。
ちょうどいい。眠り姫と遊ぼう。
オレは機嫌良く渡り廊下を歩いて行った。
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