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第17話
いい子なんかじゃない。
だって、勝呂が、父様が守ってくれた命を自ら捨てるようなものだから。あの、哀しそうに笑う顔を、俺はきっと忘れない。
母様は、怒るだろうか。
だけどきっと、納得できる最期だから。
「…音無」
「なんですか?」
刀を背に感じたまま振り返ることなく名を呼べば、存外普通に返事が返ってきた。
「嫌な役を、やらせてすまない」
俺のわがままに、巻き込んで。
「……昔の借りを、返すだけですから」
昔。
そうか、音無にも俺は会ったことがあった。刀を持つ鬼。龍の子供。
音無の刀は、退魔の刀だ。心臓を貫けば、俺の様な鬼や湊の様な人では無い何かには良く効く。刺した刀を抜かなければ死は確実だし、俺も、理性が飛ぶ前に死ねる。
誰にも迷惑をかけずに、傷付けずに、終われる。
それが嬉しくもあった。勝呂にまた、俺を殺させずに、済む。
「ーーーーーーさよなら」
最期に聞こえた言葉は、誰が放ったものだったろう。
◇◇◇◇
空が、青い。
雲一つない、快晴だ。清々しいくらいの青にふと息を吐いた。
一面の花畑に、一本の木。太い太いその幹には赤い紐が結ばれている。その幹に背を預けて座り、ただその花畑を見つめていた。
「(……参ったな、ここまで恋焦がれるとは)」
視界で揺れる黒髪に、自嘲気味に笑い立ち上がると、一瞬の強い風に思わず目を閉じた。木の葉が音を奏でて、花びらが甘い香りを連れてくる。
「ーーここに、いると思った」
聞き覚えのある凛とした声音に目を開けば、そこには一人の少年が立っている。真っ黒な髪に、金の瞳の、少年が。
「ーーーーーーーーーおかえり」
そう言えば、おもむろに伸びてきた手が胸ぐらを掴み、唇が触れた。
「…驚いた」
「……次までにとっておくって、言ったろ」
クロッカスに口付けを -了-
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