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第5話

5  【こないだはありがとうございましたー。早速なんですけど、今度飲みません? うちの後輩くんも交えて、どうですかー?】というメッセージを、電車の中で犬塚さんに送る。電車の扉の部分に頭を預け、がたんごとんと電車と共に揺れる夜の景色を眺めた。立ち並ぶ高層ビルの放つ光が、煌々と街を照らしている。いつも見ているこの景色は、不思議なことに、何度見ても飽きることはない。 【酔っ払いはあのあと無事に家に帰れたのかな。もちろん、いいよ。いつが良い?】スマホが震えて画面を見ると、すぐに返信が来ていた。気が利く男は、やっぱりマメなようだ。感心をして、返事を打つ。 【もちろんちゃんと帰りました! 酔っ払いじゃないけどー。今週末とかだと急ですか?】 【丁度空いてるよ、金曜で良い?】 【やった、あざーっす! 後輩くんが仲よくなりたい女の子も呼んでいいですかー?】 【ガツガツしてる子じゃなければ。】 【多分大丈夫です、多分。詳しく決まったらまた連絡しまーす】 【了解。】  何往復かやり取りをして、スマホのアプリを落とす。必要最低限の言葉の往復は、不思議と心地良かった。ガツガツしてる子、の件で、つい噴いてしまったのはナイショだ。車内の視線を集めそうになって、慌てて咳払いをする。スマホをポケットにしまおうとしたら、不意に機械が震えた。確認すると、犬塚さんから、メッセージが届いている。さっきまでのやり取りの一番最後に、【今日も一日、おつかれさま。】という一言が添えられた。  ――これが、イケメン力というやつだ。  俺が女の子だったら絶対惚れてた、くやしい。  最寄駅に到着するまでスマホをぎゅっと握りしめて、返事を返すにも返せず、所謂既読無視をする俺だった。  家に着いて後輩くんにメッセージを送って【マジありがとうございます! 駿河さん神! 超神!】と大変有難がれた後に風呂に入って、ゲームを起動させた。ゲームを始めてから、曖昧だったオンとオフに、はっきりと区切りがついたような気がする。今日も今日とて、俺はコントローラーを握り締める。パジャマで。 「こんばんはー」  画面が移り変わったら、すぐに、ギルドのみんなに挨拶の言葉を打つ。「ばんわー」「ちーっす」「こんばんわ★」と、口々にメンバーが挨拶を返してくれた。そこにシノさんの名前も入っていて、なんとなく、ほっとする。  このゲームには、日課、と呼ばれるものがある。モンスターとバトルをする他に、職人になって、武器とか道具を自分で作ることができるんだけど、職人の師匠に、毎日何かしらの武器や道具を納品することだ。ノルマを達成したら、レベルに応じた報酬がもらえる。他にも、指定された敵を指定された数だけ倒すとか、アイテムを探すとか、毎日更新されるクエストがあるんだけど、俺は一番負担の少ない、武器や道具の納品を行っていた。同じような目的で人が集まる街の広場に行き、黙々と作業を行う。 「順調?」 「あ、シノさん」  たまたま隣に来たシノさんが、話しかけてきた。俺のキャラは手を振って、喜ぶ。シノさんの隣に、見慣れない女の子がいた。猫の耳が可愛らしい、コボルトだ。 「この子、新しくギルドに入った子」 「ショコラです、よろしくお願いしますぅ」 「アキだよー、よろしくー」  そういえば、さっき、挨拶が流れる中で、見慣れない名前があるなあ、と思っていた。この子だったみたいだ。頭を下げると、ショコラちゃんも頭を下げる。猫コボルト、特に女の子の仕草はかわいくて、スカートみたいになっている装備の端を摘まみ、片方の爪先を地面に立てるポーズで丁寧に挨拶してくれた。 「始めたばっかりらしくてさ、最低限のこと進めてるところ」 「そうなんだ!」 「シノさんすっごく優しくてー、助かりまーす」 「そうそう、シノさんは優しいんだよ」  ――そう、シノさんは優しい。  俺にだって色々教えてくれたし、物もくれた。この日課のことだって、全部、シノさんが教えてくれたことだ。ショコラちゃんは、以前、街中で見たかわいこちゃんたちと同じか、それ以上に可愛らしい。本来は灰色のローブを、ピンクの色に染めて、生足が見えるように足元の装備を変えている。ふわふわのピンクの髪のツインテールも、服に合っているし、当たり前だけど、目鼻立ちがはっきりとして顔立ちも良い。キャラメイクをした人のセンスが窺えた。 「アキも来る?」 「ん、まだ日課終わってないー。ありがと」 「そか。じゃあ行ってくるよ」 「行ってらっしゃーい」  連れ立ってダンジョンに行く二人を、手を振って見送った。  べつに、仲良くしてる二人を間近で見るのがやだとか、そーゆーことじゃないんだけど。――俺ってこんなに独占欲、強かったかなあ。友達を独り占めしたいとか、あんまり、思わないのにな。  何だかもやもやする気持ちを反映するように、装備品作りも、失敗続きだ。結局納品はあきらめて、その日は、早くゲームの電源を落とした。楽しくできないなんて、そんなの、ゲームの意味を成してない。……なんで楽しくないのかは、よくわかんない。

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