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第20話
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「あ、そこ、トラップあるから気を付けろよ」
「あ」
「あー」
「ああああ、ごめん、死んだー」
「はいはい、ヒールヒールー」
――あれから、俺は頻繁に犬塚さんの家に通うようになった。俺の家より大きなテレビが気に入ったからだ。犬塚さんはローテーブルの上にノートパソコンを広げて、その中で、同じゲームをしている。最近のネトゲは、家庭用ゲームとパソコンと、併用できるものが多いらしい。俺が「犬塚さん家のでっかいテレビでゲームしたい」と我侭を言ったら、「んじゃウチ来れば」「シノさんも一緒がいい」「パソコン使えってことか」という遣り取りの末、犬塚さんがパソコンで、そして俺はゲーム機を借りて、同じネトゲをすることになった。
交わしている会話は、ネトゲの中でのものとそう変わらない。同じ画面を見ているから、文字だけでの会話よりも意思の疎通がしやすいし、何より楽しい。
「シューウ」
「ん?」
呼ばれて隣に並ぶ犬塚さんを見上げると、ちゅ、と音を立てて唇に口付けられた。唐突なことに瞬いたら、楽しげに笑う犬塚さんの顔が見える。
「ヒール一回ごとにキス一回な」
「なにそれ!」
「安いもんだろー」
「えー」
「ちなみに蘇生だとセッ」
「クスとかしないからねまだしないからね!」
「んじゃもう死ぬなよ」
「死なないよー」
他愛無い会話を交わしながらコントローラーを握るのが、とても楽しい日が来るなんて。
画面の中では、アキとシノさんが、広大なフィールドを駆けまわっている。そして部屋の中では、俺と犬塚さんが、並んでコントローラーを操作している。ちらりと横目で犬塚さんを窺うと、最初に出会ったときと何も変わらず整った顔がそこにはあって、小さく笑った。
――きみは、ひとりじゃない。
頭の中でゲームのキャッチコピーを思い浮かべて、俺は、犬塚さんの唇にキスをした。
「俺今、ひとりじゃないよ」
「ん? 知ってる」
「うん。……ありがと、シノさん」
リアルで初めてその名を呼ぶと、犬塚さんは驚いて、その後に、笑った。
「こちらこそ、アキ」
犬塚さんからのキスは優しくて、ゲームの中で、キャラクター同士がキスしてたのを思い出した。
――俺は、ひとりじゃない。
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