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どうしようどうしよう、と焦っていると電話口の向こうから呆れたような声が聞こえてきた
『なに、また喧嘩したの?』
「っ!……ち、ちがっ!」
図星かよ、と小さく呟かれたその声になにも言えなくなってしまった
実際、自分たちはここ数ヶ月、毎日のように喧嘩している
今まで、何度も喧嘩してきた僕達だが
最近の喧嘩は比にならないほどひどい
3日前はプリンを食べたか食べてないかで喧嘩
2日前は犬を飼いたいか猫を飼いたいかで喧嘩
1日前は明日のデートどこに行くかで喧嘩
…………で今日はナンパされたことで喧嘩……………
ほんと、一つ一つが小さなこと過ぎてため息が漏れる
「っはぁ…………」
『……お前も大変だな…………』
「うーん…………まぁ、ね」
ふぅ…………と一息ついたその時だった
『はる…………』
『ちょっと待ってて、な?』
向こうから晴也を呼びかける声がした
その声は出会った当初よりも、自信がこもっていて、凛としている
初めて鈴に出会った時は、震えていて声も小さく、度々イライラしたものだ
たが、今はそんな様子も全くなく、甘えるような様子さえ見えることがある
そんなふうに鈴を変えたのが晴也なのだ、と思うと
自分との違いを感じて、切なくなる
薫は初めて出会った時よりも、自信がなくなり、最近では甘えてくることも無くなった
僕が薫をこんなふうに変えてしまったのだ、と思うと胸が張り裂けそうになる
どうすれば…………自分の気持ちが伝えられるのだろう………………
自分の口でいえば済むことなのだが、どうにもプライドの高い自分にはできそうにない事だった
どうしたものか………………と頭を抱えていると
玄関が開き、ちいさな声で「ただいま」と聞こえてきた
僕は急いで晴也との電話を切ると、いとしい人のもとへ飛んでいった
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