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第7話

 そして今日もまたこいつは俺の部屋に居座って、テレビを見てはくすくす笑う。  別に歓迎して入れたわけやない。  手土産に俺の好きな「楓」の焼き鳥を持って来たからや。  いや食いもんに釣られたわけとちゃうけどな。 「はい、あーん」  天使の微笑みで、堕天使のこいつは串を差し出す。 「あほか、お前は」 「ええやんかー、恋人ごっこ」  言いながら自分で一口かじり、唇の端についたタレを舌でぺろりと舐めて挑発的に笑う。  自分の魅力を十分に承知しとって、それを見せびらかすみたいに。  いや、実際そうなんやろう。それで何人の男を落としてん?  「キスしたなった?」  にやっと笑う顔は堕天使と言うよりもはや小悪魔だった。 「は、この性悪め」 「ええな、もっと誉めてやー」  甘えて擦り寄ってくるから、ぐっと引き寄せてキスする寸前の態勢で止めてやる。  ドキッとした顔で見あげて来よるから、動きを止めて間近にこげ茶の瞳を覗き込んだ。  一瞬で素の顔になった耳元を、ゆっくり舐めて囁いた。 「誉めとらんわ、あほ」  ほんの少しの間をおいて、あいつは真っ赤になって「あほはお前や」と喚いた。 「今の顔は俺もわりと好きやで」  言うてやったらそっぽを向いて、焼き鳥にかじりつく。  どうしたもんやろな、こんなんに手ぇ出すほど困ってないんやけど。  まだ赤い顔をしてビールを飲む完璧に整った横顔をちらりと見て、俺は焼き鳥に手を伸ばす。  完

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