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夏虫疑氷→sideT

教室へ戻ろうとすると、扉の前に同学年の木崎直哉が仁王立ちで立ち塞がっている。 ヤツは盲目的に真壁を崇拝しているので、最初は気があったが、最近じゃかなり反目しあっている。 つかつかとオレに近寄り、木崎はグイッ胸ぐらを掴みあげてくる。 「栗原さんから、オマエらが抜けたって聞いた」 「ああ、そうだ。何か?」 ギリッとオレを睨みつける相手に、オレはため息をもらす。 「オマエら、うちと敵対するつもりか?」 冷静な口調をこころがけているつもりだろうが、声の端々は苛立ちと怒りに満ち溢れている。 「さあな。真壁さんのトコにいても、テッペンとれねーなら自分でとるっきゃないでしょ。出てくのはそれだけの理由だ」 「世話になった、士龍さんが居ない時にワザワザ出てくのは、喧嘩売ってるってことだろ。出てくなら俺が相手になる」 「やめとけ、木崎。オマエはオレに勝てないし、オマエを潰したらそれこそ真壁さんにケンカを売ることになる」 世話には、なったかもしれない。 まあ、こっちが喧嘩に巻き込まれたときは、すぐに加勢にきてくれる。本当に頼りになる人だった。 だけど、それだけだ。 オレはもっと野心のある人を上に担ぎたい。 それがいないなら、オレがそれになる。それだけだ。 「そう思われても仕方がねーけど。仮に居たとして同じことを言ったとしても、オレは真壁さんが引き止める人だとは思えないけどな」 オレが知ってる真壁士龍という男は、仲間を大事にしてはいるが、それを頼りにはしていない。 人数が増えようと減ろうとまったく気にはしない。 己のチカラだけで全て解決しようとする、ワンマンなヤツである。 「木崎、オマエもわかるだろ?」 何時も余裕そうにかまえていて、何一つ大変な顔すらせずに片付ける。おんきせがましくもなく、野心すらまったくない。 憧れはする。 圧倒的な強さの下、安心感はある。 だけど、それじゃ足りない。 オレの中にある、ふつふつと煮えたぎる感情は、それじゃ足りないとばかりいっている。 それを掴み取るためにも、オレは真壁さんの庇護下にいることをよしとはできなかった。 木崎は俺の上着から手を外すと、勝手にしろっと捨てゼリフを吐いて、別の教室へと向かって歩いていった。

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