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一朝之患 →sideT

カーテンの隙間から僅かに入りこむ朝日の眩しさに、オレはゆっくりと目を開く。 いつもとは違う景色に、ぼんやりとした頭で考える。 そうか、あのまま真壁を看ながら寝ちまったんだな。ベッドの上に頭を置いたまま寝ていたのと、昨日殴られまくったので体がかなり痛んで仕方がない。寝たあとに痛みはくるってよくいうが、かなり半端ない痛みに奥歯を噛んだ。 ふと視線をずらすと、真壁はまだ深く眠っているようだ。……熱はさがったのだろうか。 あてていた濡れタオルをどけて、真壁の額に手で触れるとまだ少し熱っぽいようだ。 水もぬるくなってるし、出て行く前にタオルを取り替えておくかな。 オレは体を起こしてバケツをもつと、ゆっくりと階段を下りて洗面所に向かおうとする。 「あら、士龍ちゃん……もう起きたの?今日ははやいのね?」 キッチンから顔を出してきたのは、ショートカットのとびっきりの美女に、オレは直立不動になる。 見た目は二十代前半くらいの、くるっとした目をした綺麗な黒髪の女性だ。 「あ、すみません……。真壁、熱で……寝てます。オレは………同じガッコの……富田っていいます」 なんて、説明すればいいんだろう。 嗅いだら甘い匂いがしそうな、線の細い可憐な女性だ。真壁の姉だろうか、ひどく緊張する。 「まぁ、士龍のお友達ね。私は士龍の母です。あの子、また熱出したのね。子供のころから体が弱い子だから…………。面倒みてくれて、ありがとう」 えええええええええええええ、母親とか。 真壁の母親かよ……って、これが世に言う美魔女ってやつか。 つーか、ありえねえくらい、美人すぎっだろ。 なんてうらやましいっていうか、あのバカが体が弱い子なんて、母親にどんな認識されてんだ。 「いえ……あ、バケツに水入れ替えようって思って…………」 「あの子、昔からいじめられっ子で、ちょっとストレスたまると熱でちゃうのよね。神経質な子みたいなの。また、学校でイジメられてないかしら?……富田君も、怪我してるみたいね。あの子と一緒で転びやすいの」 って、自分の子をわかってなさすぎるだろう。いじめられっ子だ?派閥のボスなんですけど。 それに、神経質どころか、無神経のかたまりでイライラしてホントにどうにかしてほしいし。 というか、転んでこんな傷できねえだろ……。アイツ喧嘩で怪我するたびに転んで怪我したっていってるんかよ。 いや、補導もされてるはずだし、母親だしわかってないわけないよな。 「……そうかもしれないです」 精神衛生上かなりヤバイと思い、適当に返事をすると、オレは洗面所で水を入れ替えて、不思議ちゃんな美女を尻目に真壁の部屋に戻る。 夜勤してるっていってた看護士さんの母親なんだろうけど、どんだけ世間知らずなのだろう。 真壁も、まあ、そんな感じのところはあるけど。 バケツの水にタオルを浸して水を絞って、真壁の頭に置くと真壁の顔をじっと見る。 確かにあの美人から生まれただけあって、凄いイケメンってわけではないけど、顔は甘いマスクだし整っている。 ……父親似なのか、な。 とりあえずスマホあるし、地図みながらガッコに向かうかな。明るければなんとかなるだろう。 今からなら、とりあえずガッコには間に合うかもしれない。 母親も帰ってきたなら、真壁のことはもう大丈夫だよな。 もう一度、腰をあげて帰ろうと土で汚れた制服を着る。 「おい…………?置いてくのか?」 少し掠れた声が聞こえ、俺の腕をぐっと引かれる。 「アンタ熱、あンだろ?……今日は休めよ……」 思わず眉を寄せて振り返ると、タオルの隙間から僅かに寂しそうな表情が映る。 「やすまねえよ…………また、留年はできねえから……悪いケド連れてってくれ」 って、どんだけ出席日数やべえんだよ。 まあ、GWすぎるくらいまで見かけなかったから、相当休んだんだろうけど。 「アンタ原チャだろ?2人乗りは……捕まるぞ」 「頑張って、捕まんないようにしろよ」 「……頑張るってなァ…………」 ま、仕方ないか。留年2回するのはかなりキツイもんなァ。 「じゃあ、着替えろよ」 「……昨日…………看病アリガト………な」 のろのろと起き上がる真壁が、少し小さい声で俺に礼を言うのが聞こえて、俺は俯いた。 元々はオレのせいだっていうのに。ありがとうとか、言われる筋合いはまったくない。 「……一回で壊れたら困るからな……」 だけど、オレは、そんなことしか言えない。 真壁が、そっかといいながら服を着替え始めたのを横目に、オレは強く唇をかみ締めた。

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