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ひび割れた記憶
兄貴の口から出た言葉はら幼い俺の心を深く傷つけた。そして、ショックだった。兄貴はずっと俺のことをそう思ってたんだと知ると、凄く悲しかった。そして雨の中、大声を出して泣いた。
俺は泣きながら兄貴の服を後ろから掴むと手で引っ張った。だけど兄貴は俺の方を少しも、振り向かなかった。まるで相手の存在すら、消してるように冷たかった。
そのあと、冷たい雨の中を傘をささずに。兄貴は濡れながら前を歩いていた。俺は泣きながらそのあとをついて行った。持っていた傘を引き摺ったまま歩いた。そして、兄貴の傘はアスファルトに置き忘れたまま、一度も開くこともなく濡れた。
その時、兄貴が俺に何を言ったかは今となっては思い出せない。すべてがあの雨の中、雨音の雑音でかき消された。俺はそれ以来『雨』と『傘』と『兄貴』が嫌いになった。雨の匂いを嗅ぐとあの時の事をふと思い出してしまうから――。
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