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ひび割れた記憶
自分が期待していた事とは裏腹に兄貴は俺の方を見てくると、素っ気ない態度で『いらない!』と答えた。
尖った感じの言い方に俺は少しムッとなった。だけど傘をささないと雨に濡れるから、俺は再び兄貴に持ってきた傘を手渡そうとした。すると、兄貴は俺に向かって『しつこい!』と言って怒鳴ってきた。
その時、どうして自分が兄貴に怒鳴られなくちゃいけないのかが解らなかった。だから俺は兄貴の腕を掴んで離そうとしなかった。すると次の瞬間乾いた音がパンと鳴ると耳の奥がキィーンとするような音が響いた。その時、初めて兄貴に顔を叩かれた。
――正直言ってその時はショックだった。そして、理由も無く叩かれたことに俺は呆然とした表情で兄貴の顔をジッと見た。
兄貴は叩いてくると両手でドンと突き飛ばしてきた。そして、地面に倒れた俺を冷たい瞳で見下ろしていた。その表情は怒ってるワケでもなく、ただ単に相手が憎たらしいと思ってるような表情だった。
空からは冷たい雨が、地面に打ちつけるように激しく降っていた。土砂降りの雨の中、水溜まりの上に尻もちをついたまま呆然と兄貴の顔を見ていると、急に感情を剥き出したままの言葉を俺に向かって浴びせてきた。
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