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忘却と……

――くすんだ空からは冷たい雨がパラパラと降っていた。静けさが漂う雨の中、車のバックミラーに映った自分を見ながら、私はその詩(ことば)を思い出した。  いつどこで聞いたかは思い出せない。あるいは映画の台詞か物語に出てくる小説だったろうか。何故か雨は、自分が忘れていた遠い記憶と過去を思い出させた。私にとっての一部。それは一体、誰だったのだろうか……。 静寂に満ちた車内でハンドルに手を掛けたまま、不意に考え込んだ。カチカチと音を鳴らしながら雨に濡れた窓ガラスを拭く、ワイパーの動く音が響いた。交差点は雨の中、傘を差した人達が疎らに行き交っていた。  今日は運悪く天気が悪い。朝からずっと雨だ。  雨は嫌な事ばかりを思い出すから余り好きじゃない。そうしているうちに、再び頭がボンヤリとしてきた。  

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