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忘却と……

私は幼い頃から本を読むのが好きだった。漫画を読むよりも、本を多く読んだ。結末が読めないものほど面白いものは無い。だから最後まで読む。  先の見えない物語りが気になって、広々とした机の前で頬杖をついたまま一人で物語りの空想にふけることもあった。小さな自分にとって大きな机の前では、想像の可能性を無限に感じさせてくれた。  最後に主人公の旅の終わりは、どうなるか気になった。ハッピーエンドで終わるのか、それともバッドエンドの結末で終わるのか。子供の頃は、本を読んで胸がワクワクした。そして色々な本を沢山読んで行くうちにそれは私の一部になった。 大人になってからもたまに本を読む時があるが、今は仕事が忙しい。そうしているうちに読みたい本が部屋の中でドンドン溜まっていく。 何故か大人になるといい訳ばかりが増えていく。そして、気持ちを騙して何でも自分の都合の良いようになってしまう。子供の時こそ純粋なものは無い。あの頃は、手を伸ばせば届きそうにあったものが今は遠い昔のようだ。車内で一人ボンヤリと考えていると、後ろから大きなクラクションの鳴らす音が鳴り響いた。 その瞬間、私はハッとなって我に返った。信号機はいつの間にか靑から赤に変わっていた。後ろには車の列が出来ていた。それに気がつくと慌てるようにアクセルを踏んで車を家へと走らせた。  余り寝てないせいなのか少し疲れている。弟の悠真がいなくなってから、今日で2週間以上は経った気がする。 警察は未だに動いてくれない。向こうでは勝手に家出と決めつけている。何か事件や事故に、巻き込まれた可能性がない限り警察は動いてくれないらしい。 馬鹿げてる。あいつらはまるで頼りにならない。だから私達家族は警察の力を頼らずに自力で悠真を探していた――。  

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