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─見返り─

 悠真が消えてから3週間以上が過ぎた頃だった。兄の克哉は、突然消えた弟の足取りを掴む為に。父親と友人と共に街頭でビラを必死に配って情報を呼びかけていた。だが、どんなにビラを配ってもなかなか弟の情報は手に入らなかった。 それどころか誰一人も気にかける事もなく、無情にも自分の目の前を人が通り過ぎた。冷たい雨が降る中、父親は傘をさしながら懸命に呼びかけていた。 「誰かこの子を見ませんか!? うちの子が突然いなくなってしまったんです!! 何でも構いません、この子を見かけたら情報を…――!」  父親は降りしきる雨の中で、持っていたビラを通行人に配っていた。その様子は、我が子の身を案じて心配する親の姿だった。必死に呼び掛けるが周りは興味無さげな顔で彼らの前を素通りして通り過ぎた。 「おっ、お願いします……! どうか、どうかビラだけでも……!」 「うるせぇ! んなもん、よそでやれよ!」 「ヒッ……!」 通行人の男がわざとらしくぶつかると、そのまま立ち止まらずに立ち去って行った。父親は男性とぶつかった衝撃で両手に持っていたビラを全部、地面に落とした。水溜まりができた地面にビラが散らばらるように落ちるとそのまま呆然と冷たい雨に打たれた。 「父さん…――!!」 克哉は離れた場所から父親の異変に気がつくと、傘をさしながら慌てて近づいた。 「父さん大丈夫、怪我は!?」 そう言って心配そうに顔を覗き込んだ。父は自分の唇を食いしばると小刻みに体を震わせた。それは怒りから来る震えなのか、それとも寒さからの震えなのか。それとも別の震えなのか、父はただ黙り込むと冷たい雨の中を小刻みに震えていた。  

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