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─見返り─
「……父さん?」
「大丈夫、大丈夫だ。 これきしの事では挫けたりはしないさ。私達がここで諦めたら、悠真は一体どうなる。だろ、克哉?」
「父さん……。ああ、そうだよ。簡単に諦めるワケにはいかないさ。俺にとっても大事な弟なんだ。きっとどこかで生きてるさ――」
克哉は父にそう言って話しかけると地面に落ちたビラを一緒に拾い集めた。その時、友人の男性がさっきぶつかって逃げた男性を捕まえて、彼らの元に連れてきた。
「なあ、克哉こいつどうする?」
「秋元やめろ! 離してやれ!」
「くっ……!」
克哉の友人、『秋元』と呼ばれる青年は捕まえた男を言われた通りに離すと男性は二人の方を睨みつけながら再び逃げて行った。
「ったく、おまえ優し過ぎ! こういう時は警察につきだした方がいいぞ!? 向こうこらぶつかって来て謝らずに逃げるなんて奴は俺は許さないタチなんだ!」
「わかってるよ、俺だってホントは腹が立つさ。でもそんなの暴力で解決にはならない。だろ?」
「ああ、そーだな。じゃあ、俺は向こうでビラを配ってくる。こっちの方は俺に任せておけ。お前はそのまま父親に付き添ってやれ、いいな!?」
「すまん秋元、そっちは頼んだ」
二人はその場で会話を切り上げると再び別々の場所でビラを配った。父親はその隣で、元気無さそうな顔で下を俯いて黙ったままだった。ただ、降りしきる雨音が雑踏に鳴り響いた。
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