168 / 217
―現在―(克哉side)
リビングで軽い食事を済ませると、雨が降る窓の外でリンが空を見ながら悲しげな声で鼻を鳴らしていた。窓を開けて庭の様子を見ると、リンは後ろを振り返って傍に近寄ってきた。名前を呼んで頭を撫でると尻尾を振って喜んだ。
「雨降ってるけど散歩にでも行くか?」
「ワン!」
「よしよし。じゃあ、散歩に行こう!」
リンは俺を見て返事をすると、嬉しそうな声で吠えた。相変わらずリンだけは元気だった。元気じゃないのは俺達の方だった。
母さんは悠真が急に居なくなって、心労で今も寝たきりだし。父さんも看病疲れで最近は元気が無さそうにしている。俺が声をかけても、上の空だった。最近は俺でさえ少し疲れを感じていた。玄関に向かうと靴を履いて、傘を持って外に出掛けようとした。すると二階から父が降りてきた。
「おや? 克哉、何処へ行くんだ?」
「ああ、父さん。リンの散歩に行ってくる」
「そうか、リンの散歩なんか最近忙しくてすっかり忘れてたな。これじゃ、悠真に怒られるな……」
「そうだよ父さん。俺が今家に居るからいいけどそろそろ休みも終わる頃だし明後日には帰るよ。それに仕事も溜まってる頃だし。俺が帰っても、リンの散歩は毎日ちゃんとやらないと行けないよ。そうしないとリンが可哀想だ。母さんが今、大変なのはわかるけどさ……」
「ああ、そうだな。気をつけるよ…――」
そう言って返事をする父は何処か上の空だった。
ともだちにシェアしよう!