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―現在―(克哉side)
父の様子を見て心配すると然りげ無く尋ねた。
「ねぇ、父さん本当に大丈夫? 母さんのこともあるけど、何だか父さんも心配だな……」
「ああ、克哉。お前はいつ帰るんだ?」
「父さん…――」
やはり父は上の空だった。さっき話した事も、すっかり忘れていた。俺はそこで小さな溜め息をつくと再び父に帰る日にちを教えた。そして玄関の扉を開けると雨の中、リンと散歩に出掛けた。
悠真が突然いなくなって母が倒れて、次は父親が倒れるのも時間の問題だった。このまま、両親をほっといて自分だけ戻るのも正直気が引けた。
冷たい雨の中を傘を差しながらリンを連れて、近くの河川敷を歩いた。雨が降る中、誰も河川敷なんか歩いていなかった。
雨が傘にポツポツと降っては、静かな雨音を立てていた。リンは散歩を楽しんでいた。その様子を見ながら物思いにふけた。
雨は本当に人の心を憂鬱にさせる。思い出したくもない事や悲しい事や、嫌な事を雨は不意に思い出させる。俺の中で唯一あるとしたらそれは……。
あの時、幼い弟が手渡してきた傘を意地なんか張らずに素直に受けとれば良かったな。あの時もそうだった。あの時も、あの日も雨だった。俺はいつだって見ていた。雨の中をずっと…――。
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