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―現在―(克哉side)

――冷たい雨の中を一人佇むと、遠い記憶を思い出していた。心の中で忘れたいと何度も思ったのに雨が降る度に不意に思い出してしまう。忘れようとすればする程、その『罪深さ』に自責の念に駆られてしまう。 「……ダメだな。だから雨は嫌いなんだ。どうして忘れる事ができないんだ。俺にどうしろって言うんだ。もう忘れさせてくれよ…――!」 持っていた傘を地面に落とすと呆然と佇みながら雨の中を濡れた。胸に広がるのは絶え間なく押し寄せて来る切なさだった。足元の水溜りをジッと見つめながら遠い過去を思い出した。あの時、手を伸ばせば救えたはずだったかも知れない。  ホンの少しの勇気が俺にあれば……。 不意に気配を感じると、後ろを振り向いた。目の前に赤い傘をさしていた女性がいた。彼女は俺と目が合うと慌てて来た道を引き返そうとした。 「待って……! キミは…――!?」 「ごっ、ごめんなさい……!」  彼女の腕を掴むとその掴んだ手を振り払った。 「キミ、あの時いたよな!? 赤い傘を差して、俺のこと見てただろ!」 「知りません……!」  彼女は持っていた袋を落とすと、急いで走って逃げて行った。彼女が落とした袋を拾うとそこには真新しい本が入っていた。 「ッ…――!」  近くで見た限り、前に街中で見た女性と雰囲気が似ていた。あの時、彼女は赤い傘を差しながら俺の事を遠くから見ていた。  自分の見間違いじゃない限り、あの時の彼女に違いない。偶然にも二度も再会するだろうか? きっと何かを知っているか、それとも…――。 「そろそろ帰らないとな。父さんと母さんが心配する。リン行くぞ?」 「ワン!」  リンは近くで返事をすると走って戻ってきた。落ちた傘を拾うと彼女が落とした本を拾って小脇に抱えると、リードを手に持って家に帰った。   

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