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―現在―(克哉side)

帰り道にさっきの事が頭の中から離れ無かった。何処かで彼女を見たような記憶があった。それが一体、いつだったかを考え事をしながら家の前のガレージを通り過ぎた。そこで不意に立ち止まるとそのままガレージの中に入った。奥には、真新しいバイクが置かれていた。  バイクの上には黒いカバーが掛けられていた。俺が前に弟の誕生日祝いに、赤いバイクを買ってやった。アイツは何故か、俺が買ったバイクには一度も乗らなかった。カバーを外すと、あの時の真新しいままだった。 ――余計なお世話だったかな。 やっぱり難しいな。今まで兄弟らしくなんてした事が無かった。アイツは電話で喜んでいたけど、内心は迷惑だったのかも知れない。それとも戸惑ったのかも。  俺達兄弟には『溝』があった。それをいきなり距離を縮めるなんて無理な話だ。何年もかけて、出来た深い溝は簡単には埋まらないのだな……。  急に虚しくなるとバイクに掛かっていたカバーを掛け直してその場を離れた。リンは近くで俺の事を心配そうな顔で見ていた。名前を呼ぶと頭を撫でて抱き締めた。リンは尻尾を振って喜ぶと、頭をスリスリと擦りつけて来た。 「――まったくお前は甘えん坊だな。ホントに誰に似たんだか。リン、家の中に入るぞ」 「ワン!」 「よし、ついでに洗ってやるか?」 「ワンワン!」 リンは無邪気に返事をすると先に玄関へと走って向かった。俺はその後をついて行くと、玄関の前で首輪を外してリンと家の中に入った。  

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